Friday, May 29, 2015

政治と理論研究会 第14回


下記の要領で研究会を開催します※終了しました.

どなたでも自由にご参加頂けます.事前申し込みは不要です.



  • 報告者:宮川 裕二(法政大学 博士後期課程)
  • 報告題名:「統治性研究」アプローチによる「新しい公共(空間)」政策言説の研究

  • 報告概要:

  •  「新しい公共(空間)」政策言説は、1990 年代後半以降、日本の新たな国家・社会の改革・形成指針として採用され、各分野・各レベルに大きな影響を及ぼしてきた。多様性を含み込みながら類同的な概念として語られてきたそれは、さまざまな立場・見地から、賛否あるいは両義的評価がなされてきたが、いずれにせよ国家・政府の限界や権能の縮退を示しているという認識においては、ほぼ一致をみせている。しかし報告者は、それを「国家の空洞化」の現れと捉えるのではなく、新たな統治のあり方へのシフトと関わるものとの仮説を立て、その研究方法として「統治性研究」アプローチをとることとした。

     本論の「統治性研究」とは、ミシェル・フーコーの1977-78、78-79年度コレージュ・ド・フランス講義を嚆矢とし、その後アングロ-サクソン諸国の社会学や政治学を中心に展開されてきたものを指す。そこでは統治(government)することとは「他者の行動の可能な領野を構造化すること」(フーコー)であるとされ、そのアプローチは現在を、「間接的テクニックによって個人を指導し統制する新自由主義的な統治形態」を軸とした「国家の統治能力の喪失というよりは、統治のテクノロジーの再編成と再構築」(トーマス・レムケ)に向かっているものと診断するものである。イギリスの政治社会学者ニコラス・ローズは、そのアプローチに基づいて、ブレア政権の「第三の道」の統治性・統治テクノロジーを「アドヴァンスト・リベラル」と特徴づけている。

     本論は、まず「統治性研究」の先行研究を渉猟し、そのアプローチの視座に基づいて、「新しい公共(空間)」政策言説をめぐるポジションについて、①ロールバック新自由主義、②ロールアウト新自由主義、③左派、④参加型市民主義の4つの理念型を提示し、それぞれの代表的な論者の文献を分析して、それらがどのような論点を基軸としてそれに向き合っているのかを整理した。さらに、「新しい公共(空間)」政策言説の推進側に立っていたのは主に①②であり、対立局面はあっても相互補完的な両者間で主調が入れ替わりながら推進されてきたことが、その言説に揺らぎをもたらした主因であるとみなし、1997年から現在に至る、すなわち行政改革会議「最終報告」の「公共性の空間」から、民主党政権下の「新しい公共」と第二次安倍政権の「共助社会づくり」までの政府関係文書の分析を行った。そしてそのような検討を通じて以下のような結論を得た。

     すなわち、「新しい公共(空間)」とは、アドヴァンスト・リベラル段階の自由主義統治性のもと、従前のケインズ主義的統治性下の政府と諸アクターとの関係設定を再編し、統治者としての政府が、被治者である諸アクターにより展開される様々な活動及びその効果を管理しようと意欲する、統治実践の領域であるとする。多様なアクターが、多様な戦略や政策ツールを用いながら、それぞれの利害関心―それは利己的とされることも利他的とされることもありうるし、また制度構築あるいはキャンペーンにより働きかけられたものであることもありうる―の実現を図ろうと自律的に行為し合う空間である(政府もこのレベルでは一アクターとなることがある)とともに、その活動と効果が人口の全体・国家に危険を及ぼすことを避け、その維持・増強に資するものとなるよう、政府により、主には間接的介入によって舵取りされるガバナンス空間、ということである。そして、そのような領域を形成するために、諸アクターの自由を生産し消費するような仕組みを整えるよう促したり、諸アクターが各種領域で活動できるような制度改革に向けて方向づけを行なったり、さらにこれが新たな日本社会・国家全体の指針であると国民の意識を涵養し活動へと促す機能を果たしたりするものが、「新しい公共(空間)」政策言説である、と。


  • 問い合わせ先:松尾 隆佑 kihamu[at]gmail.com

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