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Friday, December 30, 2016

2016年の政治思想


2016年に刊行された主な政治思想書を,コメントを付さずに羅列します.時系列ではなく,大まかに研究書(単著,論文集),一般書・教科書,翻訳の順に並べています.一昨年以前のものはこちらをご覧ください(2015年はありません).手元にあるメモを頼りにしていますので,抜けが多いと思いますが,ご了承ください.


西洋政治思想













  • フリードリッヒ二世『反マキアヴェッリ論』大津真作 (監訳), 京都大学学術出版会(近代社会思想コレクション 17).
  • 反マキアヴェッリ論 (近代社会思想コレクション)




東洋政治思想








  • 朴忠錫『韓国政治思想史』飯田泰三 (監修), 井上厚史/石田徹 (訳), 法政大学出版局.
  • 韓国政治思想史


国際政治思想



政治哲学・政治理論




  • 後藤玲子 (編) 『正義』ミネルヴァ書房(福祉+α).
  • 正義 (福祉+α)






  • オノラ・オニール『正義の境界』神島裕子 (訳), みすず書房.
  • 正義の境界




※2017年1月2日,追記.

Tuesday, May 12, 2015

掲載告知: 「ステークホールディング論の史的展開と批判的再構成」


学会誌投稿論文が刊行されました.下記に目次を掲載しますので,書店で見かけた際にはお手に取って見て頂ければ幸いです.


  • 松尾隆佑 [2015] 「ステークホールディング論の史的展開と批判的再構成――普遍主義的な資産ベース福祉によるシティズンシップ保障の構想」『政治思想研究』15: 366-395.
    • 一 はじめに――社会的包摂・シティズンシップ保障・普遍主義福祉
    • 二 史的展開
      • 1 ステークホルダー資本主義
      • 2 ステークホルダー・グラント
      • 3 財産所有デモクラシー
    • 三 批判的再構成
      • 1 ステークホールディング論の過去と未来
      • 2 理念的側面――民主的連帯・集合的義務・自律保護
        • (1)連帯の理由――互恵性から民主的連帯へ
        • (2)果たされるべき義務――その集合的性質
        • (3)自律の保護――多元的な政治社会におけるステークホルダーの地位
      • 3 制度的側面――普遍主義的な資産ベース福祉を中心とする複合的保障
    • 四 おわりに――再び、「居場所」と「出番」のある社会へ

    国家と圏域の政治思想 (政治思想研究)

収録号は学会HPで目次が確認できるほか,数年後には全体ファイルが公開されます.また,将来的にはJ-Stageで論文単位のファイルも公開されるものと思います.学会誌という性格もあり,抜き刷りは非会員でお世話になった方を中心にお配りする予定です.

論文の内容は,2013年8月に東京法哲学研究会で行った報告「ステークホールディングの理論的再構成――福祉ガバナンスの規律を中心に」を修正したものです.研究会にご出席頂いた方々には,この場を借りて深謝申し上げます.

さらに遡ると,元々は2008年に提出した修士論文でわずかに言及したステークホルダー資本主義やステークホルダー・グラントの議論を深掘りしつつ拡張したという成り立ちがあります.査読を通るまでに時間がかかったことも含め,現時点での情勢に照らしてどうかと考えるところがなくはありません.

また,限られた字数でさまざまな論点に触れており,われながら無茶な論文だなぁとも感じますが,ひとまず世に出すことができて良かったと今は思っています.

ご笑覧・ご批判を乞う次第です.

Friday, January 30, 2015

御礼: 河合 [2014]


著者の河合さんからご恵送頂きました.ありがとうございます.

アーレントの「始まり」論(ないし「活動」論)のポテンシャルを丁寧に見定めるご論文で,立憲主義やラディカル・デモクラシーへの関心からも興味深く読むことができると思います.

  • 河合恭平 [2014] 「H・アーレントのアメリカ革命論と黒人差別の認識――「始まり」の恣意性と暴力に関連させて」『社会思想史研究』38: 184-203.
    • はじめに
    • 一 アーレントの「始まり」論とその難問――主にアメリカ革命論との関係で
      • 1 「始まり」およびその恣意性と暴力について
      • 2 「始まり」の難問の解決策としてのアメリカ革命という「始まり」
    • 二 『革命について』におけるアーレントの黒人差別の認識
    • 三 「リトルロックに関する考察」におけるアーレントの黒人差別の認識
    • 四 「市民的不服従」論文における「始まり」論の展開――黒人差別との関連で
    • 結論
    〔社会思想史学会年報〕社会思想史研究no.38 2014 〈特集〉社会思想としての科学

Monday, December 29, 2014

2014年の政治思想


年の瀬ですので,一昨年・昨年と同様,政治思想書の収穫を振り返ります.今年も内容に踏み込んだ紹介をする余裕がありませんので,備忘として研究の動向をメモしたものだとご了解ください.

なお偶然来訪された初学者の方などのために一言しますが,どういう研究が刊行されているかをきちんと知るには,学会誌の書評欄などにあたるのが確実です.刊行されてから学会誌に書評・紹介が載るまでにはタイムラグがあるものの,政治思想分野の主要な研究は,日本政治学会『年報政治学』(「学界展望」では論文も紹介),日本政治思想学会『政治思想研究』,社会思想史学会『社会思想史研究』の書評欄を眺めれば知ることができます.また,法学に関係する研究であれば『法律時報』毎年12月号の学界回顧で採り上げられることがありますし,人文・思想書は月曜社のブログで詳しく紹介されています.東京財団の政治外交検証プロジェクトは,政治外交史・国際関係を中心にしながらも,政治学・社会科学の幅広い新刊図書リストを作成・公開しています.

さて,以下便宜的に10点を挙げながら,関連する書籍に触れていきます.



今年最大のトピックは,この分野で初となる講座が発刊・完結したことでしょう(詳細目次はこちらから).昨年のこの企画記事で,テキスト類の充実化を指して「この分野の基礎がさらに厚みを増す」と書きましたが,本講座に凝縮されている研究蓄積を乗り越えていくのも大変そうです(完結記念シンポジウムでは,何年後かに同じ講座を新しく出すことへの希望も聞かれました).

基礎の厚みということで言えば,主だった思想家の概説+主著の抜粋から成る,杉田敦/川崎修 (編) 『西洋政治思想資料集』法政大学出版局が出版されたことも大きいでしょう.ほかに,上記講座とほぼ同じ時期を扱った単著通史として,坂本達哉『社会思想の歴史――マキアヴェリからロールズまで』名古屋大学出版会を見逃せません.古典の邦訳として,ホッブズ『ビヒモス』山田園子 (訳), 岩波書店(岩波文庫)が初めて出版されたこともニュースでした.レオ・シュトラウス『政治哲学とは何であるのか? とその他の諸研究』飯島昇蔵ほか (訳), 早稲田大学出版部もここで挙げておきます.



上記講座にも寄稿している著者による博論の書籍化です.18世紀フランスを扱っていますが,統治が直面する諸問題という観点において,現代にひきつけて読むことができるかと思います.

啓蒙つながりで言えば田中秀夫先生が昨年に引き続きご活躍で,田中秀夫『スコットランド啓蒙とは何か――近代社会の原理』ミネルヴァ書房に加え,大部の編著,田中秀夫 (編) 『野蛮と啓蒙――経済思想史からの接近』京都大学学術出版会を出されています.

欧米思想史ではほかに,柴田平三郎『トマス・アクィナスの政治思想』岩波書店,宇羽野明子『政治的寛容』有斐閣,原田健二朗『ケンブリッジ・プラトン主義――神学と政治の連関』創文社,桑田学『経済的思考の転回――世紀転換期の科学と統治をめぐる知の系譜』以文社などが目立った研究書でしょうか.論文集では,行安茂 (編) 『イギリス理想主義の展開と河合栄治郎――日本イギリス理想主義学会設立10周年記念論集』世界思想社が目を引きます.



日本政治思想で一冊挙げるとすれば本書でしょう.やはり博論の書籍化ですが,著者は大学院の先輩でもあることから,合評会を開催させて頂きました.本書でもやはり統治が大きなテーマになっており,山陽の思想を通じて政治への反省を迫られるという意味で,現代との接続が可能です.

ほかに,論争の歴史に注目した河野有理 (編) 『近代日本政治思想史――荻生徂徠から網野善彦まで』ナカニシヤ出版が話題を集めました.矢内原事件が当事者にどう見えていたかを検証した将基面貴巳 『言論抑圧――矢内原事件の構図』中央公論新社(中公新書)は,読み物としても面白く,しかし独特の感慨を残します.他の研究書として(政治史と言うべきでしょうが),佐藤健太郎『「平等」理念と政治――大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』吉田書店があります.



政治理論分野での最大のトピックは(上記講座を抜きにすれば)本書刊行でしょう.経済学や社会学,思想史,あるいは経験的な政治分析など,隣接分野からの多角的な視点によって政治理論のあり方について検討が加えられています.日本政治学会での関連セッションも盛況でした.私の専攻分野でもありますので,可能ならそのうち感想を書きたいと思います.

既発表の論文が中心ではありますが,森政稔『〈政治的なもの〉の遍歴と帰結――新自由主義以後の「政治理論」のために』青土社が出版されたのも大きなニュースでした(こちらも検討したいと思いつつ果たせずにいますので,そのうちに).趣の違うところでは,吉田徹『感情の政治学』講談社(講談社選書メチエ)を挙げられます.感情への注目は色々な分野で今まさに開拓されているさなかのテーマですので,今後の議論の先駆けになる一冊かなと思います.

ほかに,翻訳で著名なものが幾つか出ています.キャロル・ペイトマン『秩序を乱す女たち? ――政治理論とフェミニズム』山田竜作 (訳), 法政大学出版局,マイケル・ウォルツァー『解釈としての社会批判』大川正彦/川本隆史 (訳), 筑摩書房(ちくま学芸文庫),アイリス・マリオン・ヤング『正義への責任』岡野八代/池田直子 (訳), 岩波書店,スティーヴン・マシード『リベラルな徳――公共哲学としてのリベラリズムへ』小川仁志 (訳), 風行社,ロナルド・ドゥオーキン『神なき宗教――「自由」と「平等」をいかに守るか』森村進 (訳), 筑摩書房,ユルゲン・ハーバーマスほか『公共圏に挑戦する宗教――ポスト世俗時代における共棲のために』箱田徹/金城美幸 (訳), 岩波書店,エルネスト・ラクラウ 『現代革命の新たな考察』山本圭 (訳), 法政大学出版局など.



国際政治思想の著作では,まず本書と古賀敬太『コスモポリタニズムの挑戦――その思想史的考察』風行社を挙げておきます.いずれも,久々に登場した「政治理論のパラダイム転換」シリーズの新刊です.ほかには論文集として,高橋良輔/大庭弘継 (編) 『国際政治のモラル・アポリア――戦争/平和と揺らぐ倫理』ナカニシヤ出版と宇佐美誠 (編) 『グローバルな正義』勁草書房が出ています.



ここからは個別分野からは離れて.本書は,「政治理論のパラダイム転換」と同じく風行社が立ち上げた新シリーズ,「選書〈風のビブリオ〉」の一冊として刊行されています.同シリーズでは,早川誠『代表制という思想』風行社が先に出ていますが,いずれも劣らず良書です.特に本書は,アリストテレスやアクィナスからスミス,ヘーゲル,マルクス,ひいてはロールズやハーバーマスまで,労働と福祉を軸にした思想史をコンパクトに辿ることができるという意味で,類書を見出しにくいかと思います.



昨年触れた宇野重規『民主主義のつくり方』はプラグマティズムを重視した点に特色がありましたが(宇野先生は上記講座にもプラグマティズムの章を執筆しています),その影響もあってか,プラグマティズム関連本の出版ラッシュが続いています.原典では上記古典集成のほかに,ジョン・デューイ 『公衆とその諸問題――現代政治の基礎』阿部齊 (訳), 筑摩書房(ちくま学芸文庫).その他,コーネル・ウェスト『哲学を回避するアメリカ知識人――プラグマティズムの系譜』未来社,ジョン・P. マーフィ/リチャード・ローティ『プラグマティズム入門――パースからデイヴィドソンまで』高頭直樹 (訳), 勁草書房など.



今年を振り返る上で,映画『ハンナ・アーレント』公開に伴って継続していたアレントブームを外すことはできないでしょう.本書のほかにも,入門書として仲正昌樹『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』作品社,川崎修『ハンナ・アレント』講談社(講談社学術文庫)が,研究書としてパトリシア・オーウェンズ『戦争と政治の間――ハンナ・アーレントの国際関係思想』中本義彦/矢野久美子 (訳), 岩波書店が出ています.

アレントとは違いますが,フランクフルト学派とハーバーマスをここに挙げておきましょう.細見和之『フランクフルト学派――ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ』中央公論新社(中公新書),木前利秋『理性の行方 ハーバーマスと批判理論』未來社,ユルゲン・ハーバーマス 『自然主義と宗教の間――哲学論集』庄司信/日暮雅夫/池田成一/福山隆夫 (訳), 法政大学出版局.



「一般意志2.0」との関係を云々しなくても近年ルソーへの注目は高くあり続けていると思いますが,本書はルソー研究の最前線をうかがうために必読でしょう.永見文雄/三浦信孝/川出良枝 (編) 『ルソーと近代――ルソーの回帰・ルソーへの回帰』風行社は,ルソー生誕300周年記念シンポに基づく論文集.



最後に,今年に始まった話ではありませんが「保守」ということが関心を集めていますので,ハイエクの研究書を挙げておきます.ハイエクについては上記講座にも山中優先生が寄稿しており,さらに本書著者と山中先生がどちらも執筆している,桂木隆夫 (編) 『ハイエクを読む』ナカニシヤ出版も出版されています.関連で,ジェレミー・シアマー/ピアズ・ノーリス・ターナー (編) 『カール・ポパー 社会と政治――「開かれた社会」以後』神野慧一郎/中才敏郎/戸田剛文 (監訳), ミネルヴァ書房を挙げておきます.

保守主義については,佐藤一進『保守のアポリアを超えて――共和主義の精神とその変奏』NTT出版が出ています.入門書として,仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』新潮社.


それでは,よいお年を.

Thursday, April 10, 2014

御礼: 田村 [2014]


著者の田村先生からお送り頂きました.ご高配ありがとうございます.

2011年の政治学会でのご報告を基にされたものです.

鵜飼さんの『人民主権について』と併せて読むと,何か見えてくるかもしれません…と勝手に思っております.

  • 田村哲樹 [2014. 3] 「構築主義は規範をどこまで語ることができるのか? ――政治的構築主義・節合・民主主義」『名古屋大学法政論集』255: 715-755.
    • 序論
    • 第一節 規範を経験的に語ること――経験的な構築主義
    • 第二節 構築主義と「政治的なるもの」――政治的構築主義と異なる規範の発生可能性
    • 第三節 政治的構築主義は規範をどこまで語ることができるのか?
    • 第四節 政治的構築主義と規範としての民主主義の節合
      • (一)ハンセン
      • (二)マーチャート
      • (三)民主主義の正当化という問題をめぐって
    • 結論

Friday, December 27, 2013

2013年の政治思想


大仰なタイトルに見えますが,昨年の試みを継続して,政治思想史・政治理論分野での収穫を簡単に振り返ってみるというだけのことです.内容に踏み込んだコメントを付す力量はありませんので,あくまで表層的なまとめに徹します.


さて,昨年同様に教科書・概説書から入るなら,まずは宇野重規『西洋政治思想史』有斐閣(有斐閣アルマ Basic)の刊行が目を引きます.西洋政治思想の通史としては川出/山岡『西洋政治思想史』が昨年出たばかりですが,単著の通史はしばらく現れていませんでした.やはり昨年に川崎/杉田 (編) 『現代政治理論』新版が出ていますので,これでテキストはかなり充実を見たはずです(残るは日本/東洋政治思想史でしょうか).なお,同著者による宇野重規『民主主義のつくり方』筑摩書房(筑摩選書 76)は,現代民主主義の可能性をプラグマティズムに見出そうとする卓抜なエッセイです.

刊行中の古賀敬太 (編) 『政治概念の歴史的展開』晃洋書房は,5巻と6巻が出ました.さらに続刊が予定されているようなので,来年初頭から刊行が開始される岩波講座「政治哲学」全6巻と併せて,この分野の基礎がさらに厚みを増すことになりそうです.政治を根本から思考する上では,杉田敦『政治的思考』岩波書店(岩波新書 新赤版1402)も長く読まれるでしょう.

同書と同じく年頭に刊行されたものとしては,鈴木健『なめらかな社会とその敵――PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論』勁草書房や,市野川容孝/宇城輝人 (編) 『社会的なもののために』ナカニシヤ出版が話題になりました.いずれも以前から続くそれぞれのトレンド(「一般意志2.0」,「社会(的なもの)」)を継ぐものでしょうが,年後半になって後者と関心が通底する重田園江『社会契約論――ホッブズ、ヒューム、ルソー、ロールズ』筑摩書房(ちくま新書 1039)が出版されたことは,トレンドのさらなる持続を示すものでしょうか.

入門書に戻ると,仲正昌樹 (編) 『政治思想の知恵――マキャベリからサンデルまで』法律文化社が若手中心の書き手で構成されており,新鮮かもしれません.同編者による仲正昌樹『カール・シュミット入門講義』作品社は,いつもながらの簡便な整理です.関連で蔭山宏『崩壊の経験――現代ドイツ政治思想講義』慶應義塾大学出版会は,より広く19~20世紀のドイツ政治思想を扱っています.また,権左武志『ヘーゲルとその時代』岩波書店(岩波新書 新赤版1454)は硬質なヘーゲル入門(以上?)として必携です.

昨年は理論系の研究書を多く紹介したように思いますが,今年は新書・選書レベルも含めて,思想史分野での収穫が豊富だったのではないでしょうか.サントリー学芸賞も受賞した将棋面貴巳『ヨーロッパ政治思想の誕生』名古屋大学出版会に,木村俊道『文明と教養の〈政治〉――近代デモクラシー以前の政治思想』講談社(講談社選書メチエ 561),鹿子生浩輝『征服と自由――マキァヴェッリの政治思想とルネサンス・フィレンツェ』風行社の三冊は,中世から初期近代を知る上で必読のことと思います.翻訳としては,エティエンヌ・ド・ラ・ボエシ『自発的隷従論』山上浩嗣 (訳), 西谷修 (監修), 筑摩書房(ちくま学芸文庫 ラ-11-1)が目を引きます.田中秀夫『近代社会とは何か――ケンブリッジ学派とスコットランド啓蒙』京都大学学術出版会と田中秀夫『啓蒙の射程と思想家の旅』未来社は,碩学による研究集成.関連する翻訳として,J. G. A. ポーコック『島々の発見――「新しいブリテン史」 と政治思想』犬塚元 (監訳), 名古屋大学出版会も出版されました.

一方,若手による川上洋平『ジョゼフ・ド・メーストルの思想世界――革命・戦争・主権に対するメタポリティークの実践の軌跡』創文社は貴重なメーストル研究.同じく小畑俊太郎『ベンサムとイングランド国制――国家・教会・世論』慶應義塾大学出版会は,ベンサム政治思想の理解に欠かせなくなりそうで,フィリップ・スコフィールド『ベンサム――功利主義入門』川名雄一郎/小畑俊太郎 (訳), 慶應義塾大学出版会と併せて読みたいところ.イギリス関連では平石耕『グレアム・ウォーラスの思想世界――来たるべき共同体論の構想』未来社のほか,論文集として佐藤正志/ポール・ケリー (編) 『多元主義と多文化主義の間――現代イギリス政治思想研究』早稲田大学出版部が,翻訳としてマイケル・オークショット『政治における合理主義』増補版, 嶋津格/森村進 (訳), 勁草書房とマイケル・オークショット『歴史について、およびその他のエッセイ』添谷育志/中金聡 (訳), 風行社が目立つところでしょうか.

アレント研究では小山花子『観察の政治思想――アーレントと判断力』 東信堂が,フーコー研究では箱田徹『フーコーの闘争――〈統治する主体〉の誕生』慶應義塾大学出版会が出ました.特に後者は,後期フーコー研究の現時点での到達点として注目されます.神島裕子『マーサ・ヌスバウム――人間性涵養の哲学』中央公論新社(中公選書 17)は,現代アメリカの著名な哲学者に関する日本初のまとまった紹介です.

日本政治思想では,河野有理『田口卯吉の夢』慶應義塾大学出版会,尾原宏之『軍事と公論――明治元老院の政治思想』慶應義塾大学出版会,大田英昭『日本社会民主主義の形成――片山潜とその時代』日本評論社などが主だった研究書でしょうか.ほかに目立つところでは,堀真清 (編) 『原典でよむ日本デモクラシー論集』岩波書店(岩波現代全書 6)や三谷太一郎『大正デモクラシー論――吉野作造の時代』3版, 東京大学出版会,三谷博『愛国・革命・民主――日本史から世界を考える』筑摩書房(筑摩選書 72),苅部直『秩序の夢――政治思想論集』筑摩書房,都築勉『丸山眞男への道案内』吉田書店など.

もちろん理論系の著作も出ています.主権,代表,ポピュリズムなどを扱った鵜飼健史『人民主権について』法政大学出版局(サピエンティア 31)は筆頭でしょう.デモクラシー関係では,ジョン・ギャスティル/ピーター・レヴィーン (編) 『熟議民主主義ハンドブック』津富宏/井上弘貴/木村正人 (監訳), 現代人文社や,ジョン・キーン『デモクラシーの生と死』上下巻, 森本醇 (訳), みすず書房が翻訳されました.また昨年の『コミュニタリアニズムのフロンティア』に続いて,同編者による菊池理夫/小林正弥 (編) 『コミュニタリアニズムの世界』勁草書房が刊行.リバタリアニズムの側では,森村進『リバタリアンはこう考える――法哲学論集』信山社(学術選書 109)がまとめられています.ほかに,スーザン・M. オーキン『正義・ジェンダー・家族』山根純佳/内藤準/久保田裕之 (訳), 岩波書店や,ナンシー・フレイザー『正義の秤――グローバル化する世界で政治空間を再想像すること』向山恭一 (訳), 法政大学出版局が翻訳.フランシス・フクヤマ『政治の起源――人類以前からフランス革命まで』会田弘継 (訳), 講談社も上巻が出版されました.

国際政治思想では,新書ながら松元雅和『平和主義とは何か――政治哲学で考える戦争と平和』中央公論新社(中公新書 2207)をまず挙げるべきでしょう.平和主義についての詳細な議論整理であり,このテーマを考える上では欠かせない本になるはずです.研究書としては大原俊一郎『ドイツ正統史学の国際政治思想――見失われた欧州国際秩序論の本流』ミネルヴァ書房(MINERVA 人文・社会科学叢書 189)や清水耕介『寛容と暴力――国際関係における自由主義』ナカニシヤ出版,押村高『国家のパラドクス――ナショナルなものの再考』法政大学出版局,中山俊宏『アメリカン・イデオロギー――保守主義運動と政治的分断』勁草書房など.翻訳ではモーゲンソー『国際政治――権力と平和』上・中, 原彬久 (監訳), 岩波書店が刊行中です.


以上,ほぼ単なる羅列になりました.今回は翻訳も含めてみましたが,やはり網羅的にやっても際限がなくなるだけなので,来年以降はまたやり方を考えたいと思います.

それでは,よいお年を.


※追記(12/28): 12月に出版された2点を付け加えておきます.安達智史『リベラル・ナショナリズムと多文化主義――イギリスの社会統合とムスリム』勁草書房は,近年のトレンドの一つであるリベラル・ナショナリズム論を具体的な政策レベルで検討したもの.レオ・シュトラウス『自然権と歴史』塚崎智/石崎嘉彦 (訳), 筑摩書房(ちくま学芸文庫 シ-33-1)は話題の翻訳です.

Sunday, November 17, 2013

御礼: 何 [2013]


  • 何鵬挙 [2013] 「「中心」と憲政の妙用――大隈重信の中国憲政論」『法政大学大学院紀要』71: 159-181.

著者の何さんから,抜き刷りを頂戴しました.ありがとうございます.

あまりよく知らないところでありますので,しっかり勉強させて頂きます.

昨日の研究会といい,着実に研究を積み上げていらっしゃる何さんにはいつも刺激を受けております.

Sunday, October 27, 2013

政治と理論研究会 第13回


下記の要領で研究会を開催します.※終了しました.

参加希望の方は,kihamu[at]gmail.com まで予めご連絡下さい.

なお,本研究会は法政大学大学院政治学専攻委員会と共催です.



    • 報告者:今橋大輝 (法政大学)
    • 報告題名:「政治的な生のスケッチ」

    • 報告概要(予定):

       ヨーロッパの思想史において,法は,宗教や伝統的な慣習,自然法則といった,生きている人間には変更不可能なものではなくなり,逆に,生きている人間が自らの意志によって打ち立て,変えてゆくことができるものとなった.このような主張を軸に,本発表は,法,意志,そして現代の私たちの政治における「議論しえないもの(生命)」について論じることを試みる.政治と思想をどのように生きるのかについてのひとつの試論.

    • 討論者:大久保歩 (東京大学)





Thursday, September 26, 2013

御礼: 今橋 [2013]


  • 今橋大輝 [2013] 「ドゥルーズのニーチェ解釈――「主人と奴隷」の観点から」『哲学年誌』(法政大学大学院人文科学研究科哲学専攻), (44): 1-22.

著者の今橋さんから,所収の号を頂戴しました.ありがとうございます.

ヘーゲルの「主人と奴隷の弁証法」とニーチェの「貴族道徳と奴隷道徳」という二つの言説の対比から,ドゥルーズによるニーチェ解釈を読み解く内容になっています.

個人的には,「解放者としてのニーチェ」像をシュティルナーとの関係という論点に引き付けながら,興味深く拝読しました.

Wednesday, July 31, 2013

財産所有デモクラシー(Property-Owning Democracy)についてのメモ


ふと思い立ったので,とあるリバタリアン系ブログに掲載された財産所有デモクラシーをめぐる記事をメモしておきます.


これらの記事の発端になっているのが以下の本で,イギリスにおける財産所有デモクラシー論の水脈からロールズにおけるそれまで,包括的にまとめられています.

  • O'Neill, Martin and Williamson, Thad (eds.) [2012] Property-Owning Democracy: Rawls and Beyond, Wiley-Blackwell.


ロールズの財産所有デモクラシーについての日本語での概説は,以下が簡便です.

    • ※収録→ 渡辺幹雄 [2007] 『ロールズ正義論とその周辺――コミュニタリアニズム、共和主義、ポストモダニズム』春秋社, 4章.


より最近の研究としては,以下などがあります.

  • 大澤津 [2011] 「分配の原理と分配の制度――ロールズの財産所有制民主主義をめぐって」『政治思想研究』(11): 279-307.

気が向いたら追記するかもしれません.

Thursday, July 18, 2013

カフカの背中――ベンヤミンとアレントの読解から


フランツ・カフカの短篇「判決」では,老いた父が息子ゲオルクに裁きの鉄槌を下す.息子はベッドの上に立って判決文を叩きつける父を見上げながら,さまざまなことを思い出し,考えつく.しかし,全てすぐに忘れてしまう.「いつもゲオルクは何でも忘れるのだった」(K27).息子は判決に従い,自ら身を投げる.そうするほかにはなかったのであろう.「忘却は解放の可能性をこそ襲うからだ」(B52).

なぜ裁きは下されねばならなかったのか.告発するものがいるからである.「人間が犯した古い不正である原罪は、人間が、自分には不正がおこなわれた、原罪が犯されたのは自分においてなのだ、と非難してやまないところに、在る」(B12).子は親の原罪を咎める.その告発が罪なのである.もっとも,「咎めることは誤りだから罪なのだ、という結論をカフカの定義から引き出すこともできない」(B13).告発は当を得ており,かつ有罪なのである.したがって訴訟は「永久に続く」(同).裁きが下されないためには告発が,すなわち正当な訴えが取り下げられなければならないだろう.必要とされているのは忘却である.

システムが機能するためには忘却が要請される.あるいは機能性が忘却を生み出す.知りえないこの機能性の体系全体の「一切を真実として受け入れる必要はないからだ。それは必然として受け入れなければならない」(A97).「必然性のために嘘をつくこと」(同)が,神秘に包まれた自明性の秩序(運命、祝福、呪い)をつくり出し,強化し,それ以外の可能性を思わせなくなるからである.このとき,誤謬の可能性もまた忘却される.「間違えることは仕事をなくすということなのである。それゆえ、彼は間違う可能性を認めることすらできない」(A104).

忘却の儀礼に則らない者は狂人とされ,やはり罪人の烙印を押される.みなが自らの「生まれながらの権利」を忘れている――忘れることを余儀なくされている――ところでそれを要求することは,端的にスキャンダルなのである(A100-101).「すべてのひとがそれについては生まれながらの権利をもっているようなことにしか興味をもっていない」K,「生活するうえで不可欠のものを」不遜にも欲する『城』のKには,死しか待っていない(同).必然性に抵抗しえなかった『審判』のKとは異なってその死に恥辱が伴わないとしても,そうなのである.

カフカは,「自分に与えられたままの世界(その安定性は私たちが「それを平和のままにしておく」かぎりでのみ存在する)を好まなかった」(A110).カフカは必然性に抗った.必然性とは,「息子におぶさっている」父であり(B12),われわれの背中に課せられている重荷である.「カフカにあっては昔から、何かが背中にのしかかっている」(B48).カフカは日記に書きつける.「眠りこむためにはできるだけ重くするのが良いと思って、ぼくは両腕を交差させ、両手を肩の上におしつけた」.「ここでは重荷を負うことが、忘却と――眠るものの忘却と――見やすく結びつけられいる」(同).重荷と忘却,そして判決の円環.この「環のそとへ脱け落ち」る可能性が認められるのは,虫や動物,せむしのこびと,助手や従者といった,多種多様な異形の者,あるいは周辺的人物たちである(B17).

これらが何を指すのかを明証する術はなく,解放の可能性がどのように回復されうるのかも知ることができない.ヴァルター・ベンヤミンはそのカフカ論をこう結んでいる.乗り手を失った馬は,彼の乗り手よりも長生きした.「人間であるか馬であるかは、重荷が背中から取り除かれさえするならば、もはや、さして重大なことではない」(B58).


  • K: カフカ, フランツ [1914=2007] 「判決」, 丘沢静也 (編訳) 『変身/掟の前で 他2篇』光文社(光文社古典新訳文庫 カ-1-1), 7-30頁.


  • B: ベンヤミン, ヴァルター [1934=1994] 「フランツ・カフカ」, 『ボードレール 他五篇――ベンヤミンの仕事2』野村修 (編訳), 岩波書店(岩波文庫 赤463-2), 5-58頁.


  • A: アーレント, ハンナ [1944=2002] 「フランツ・カフカ 再評価――没後二十周年に」, 『アーレント政治思想集成1 組織的な罪と普遍的な責任』ジョローム・コーン (編), 齋藤純一/山田正行/矢野久美子 (訳), みすず書房, 96-111頁.


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