Tuesday, March 28, 2017
2016年度の研究活動
今年度の研究として公に行なったものは,2回の学会報告と2本の論文公刊(うち,査読論文1本)です.そのほか,博士学位申請論文を執筆・提出し,審査の結果,博士号を取得しました.
まず5月に,政治思想学会の自由論題セッションで「企業経営における政治的なもの――経済権力の民主化へ向けた予備的考察」と題して報告しました.
その後,9月末に博士論文を提出し,10月に日本政治学会の企画分科会で「分割して統治させよ――ステークホルダー・デモクラシーの複数性」と題した報告を行ないました.
12月には,博士論文の審査が行なわれたほか,査読付き論文「影響を受ける者が決定せよ――ステークホルダー・デモクラシーの規範的正当化」が掲載された『年報政治学』2016年2号が公刊されました.
そして3月に「原発事故被災地の再生と中間貯蔵施設――民主的合意の形成へ向けて」を寄稿した『サステイナビリティ研究』7号が刊行されました.
学位を取得したことで4月からは色々と環境が変わることになりますが,来年度も引き続きがんばります.
掲載告知: 「原発事故被災地の再生と中間貯蔵施設――民主的合意の形成へ向けて」
所属する法政大学サステイナビリティ研究所の学術誌に寄稿した特集論文が公刊されました.図書館などへの配架はもう少し先になりますが,全文を研究所HPでご覧頂けます.
- 松尾隆佑 [2017] 「原発事故被災地の再生と中間貯蔵施設――民主的合意の形成へ向けて」『サステイナビリティ研究』7: 23-43.
- 1 はじめに――土地と結びついた人間の復興
- 2 政策枠組みの検討
- 2.1 汚染廃棄物の処理枠組み
- 2.2 中間貯蔵施設の建設計画
- 3 問題構造の分析
- 3.1 被災者の分断と広義の加害
- 3.2 不信を強化する不透明性
- 3.3 技術的合理性の偏重
- 3.4 責任主体の曖昧さと当事者意識の持ちにくさ
- 4 民主的合意の形成へ向けて
- 4.1 多段階プロセスと広域協議
- 4.2 環境安全委員会の活用
- 5 おわりに
内容としては,2016年2月に研究所の主催する公開研究会で行なった報告をもとに,その後の動きなどをフォローしながら論文化したものです.民主的な合意形成の条件を探るというかたちでデモクラシー理論からの問題意識は多少感じ取れると思いますが,テーマとしては完全に環境社会学で,分析視角なども舩橋先生の議論に多くを負っているので,見よう見まねで書いてみたという印象は拭えないでしょうか.
ただ現在進行形の重要な課題を扱っておりますので,ぜひご一読頂けると幸いです.今後も関連するテーマで学会報告などを行なう予定があり,そちらではやはり見よう見まねで政策過程分析のようなことも試みるつもりです.
Friday, December 30, 2016
2016年の政治思想
2016年に刊行された主な政治思想書を,コメントを付さずに羅列します.時系列ではなく,大まかに研究書(単著,論文集),一般書・教科書,翻訳の順に並べています.一昨年以前のものはこちらをご覧ください(2015年はありません).手元にあるメモを頼りにしていますので,抜けが多いと思いますが,ご了承ください.
西洋政治思想
- 武井敬亮『国家・教会・個人――ジョン・ロックの世俗社会認識論』京都大学学術出版会(プリミエ・コレクション 73).
- 戸澤健次『イギリス保守主義研究』成文堂(愛媛大学法学会叢書18).
- 神山伸弘『ヘーゲル国家学』法政大学出版局.
- 対馬美千子『ハンナ・アーレント――世界との和解のこころみ』法政大学出版局.
- 宇野重規『政治哲学的考察――リベラリズムとソーシャルの間』岩波書店.
- 猪木武徳『自由の条件――スミス・トクヴィル・福澤諭吉の思想的系譜』ミネルヴァ書房(叢書・知を究める 8).
- 山下重一『J・S・ミルとI・バーリンの政治思想』泉谷周三郎 (解説), 御茶の水書房.
- 中野勝郎 (編) 『境界線の法と政治』法政大学出版局(法政大学現代法研究所叢書 40).
- 仲正昌樹『ハンナ・アーレント「革命について」入門講義』作品社.
- 宇野重規『保守主義とは何か――反フランス革命から現代日本まで』中央公論新社(中公新書 2378).
- 堤林剣『政治思想史入門』慶応義塾大学出版会.
- フリードリッヒ二世『反マキアヴェッリ論』大津真作 (監訳), 京都大学学術出版会(近代社会思想コレクション 17).
- プーフェンドルフ『自然法にもとづく人間と市民の義務』前田俊文 (訳), 京都大学学術出版会(近代社会思想コレクション 18).
- ニコラス・フィリップソン『デイヴィッド・ヒューム――哲学から歴史へ』永井大輔 (訳), 白水社.
東洋政治思想
- 高山大毅『近世日本の「礼楽」と「修辞」――荻生徂徠以後の「接人」の制度構想』東京大学出版会.
- 松田宏一郎『擬制の論理 自由の不安――近代日本政治思想論』慶應義塾大学出版会.
- 河野有理『偽史の政治学――新日本政治思想史』白水社.
- 何鵬挙『政道と政体――近代日本における中国観察』勁草書房(現代中国地域研究叢書).
- 嵯峨隆『アジア主義と近代日中の思想的交錯』慶應義塾大学出版会.
- 米原謙 (編) 『政治概念の歴史的展開 9巻 「天皇」から「民主主義」まで』晃洋書房.
- 三谷太一郎『戦後民主主義をどう生きるか』東京大学出版会.
- 朴忠錫『韓国政治思想史』飯田泰三 (監修), 井上厚史/石田徹 (訳), 法政大学出版局.
国際政治思想
- 篠田英朗『集団的自衛権の思想史――憲法九条と日米安保』風行社(風のビブリオ 3).
政治哲学・政治理論
- 若松良樹『自由放任主義の乗り越え方――自由と合理性を問い直す』勁草書房.
- 金野美奈子『ロールズと自由な社会のジェンダー――共生への対話』勁草書房.
- 山本圭『不審者のデモクラシー――ラクラウの政治思想』岩波書店.
- 後藤玲子 (編) 『正義』ミネルヴァ書房(福祉+α).
- 田中拓道 (編) 『承認――社会哲学と社会政策の対話』法政大学出版局.
- 市田良彦/王寺賢太 (編) 『現代思想と政治――資本主義・精神分析・哲学』平凡社.
- 森政稔『迷走する民主主義』筑摩書房(ちくま新書 1176).
- ヒレル・スタイナー『権利論――レフト・リバタリアニズム宣言』浅野幸治 (訳), 新教出版社.
- 広瀬巌『平等主義の哲学――ロールズから健康の分配まで』齊藤拓 (訳), 勁草書房.
- オノラ・オニール『正義の境界』神島裕子 (訳), みすず書房.
- ロナルド・ドゥオーキン『民主主義は可能か? 新しい政治的討議のための原則について』水谷英夫 (訳), 信山社.
- イリヤ・ソミン『民主主義と政治的無知――小さな政府の方が賢い理由』森村進 (訳), 信山社.
- ジョナサン・ウルフ『「正しい政策」がないならどうすべきか――政策のための哲学』大澤津/原田健二朗 (訳), 勁草書房.
※2017年1月2日,追記.
Friday, December 16, 2016
掲載告知: 「影響を受ける者が決定せよ――ステークホルダー・デモクラシーの規範的正当化」
学会誌投稿論文が公刊されます.書店などに並ぶのはもう少し先かと思いますが,ご関心の向きはご笑覧頂けると幸いです.出版社HPのページはこちらです.
- 松尾隆佑 [2016] 「影響を受ける者が決定せよ――ステークホルダー・デモクラシーの規範的正当化」『年報政治学』2016(2): 356-375.
- はじめに
- 1. 被影響利害原理とその解釈
- 2. グローバル・ステークホルダー・デモクラシー
- 3. 批判と擁護
- 3.1. 適正な包摂は為されるか
- 3.2. 政治的平等は確保されるか
- 3.3. 望ましい帰結は導かれるか
- おわりに
【要旨】 集合的自己決定としてのデモクラシーには、決定の主体たるべきデモスの境界画定という根本的な決定を民主的に行うことの困難が伴う。本稿では、こうした「境界問題」を解決する指針として、決定の影響を被る者によってデモスを構成するべきとする「被影響利害原理」が有力であることを論じ、この原理に基づく「グローバル・ステークホルダー・デモクラシー(GSD)」の構想を検討することで、新たな民主的秩序化の可能性を示す。被影響利害原理の解釈は、1)影響の意味、2)影響の不確定性、3)影響を被る者への発言力の配分、などをめぐって多様でありうるが、GSDは、諸個人の自律を脅かすような影響を蓋然的にもたらす国家的・非国家的な公共権力を、等しい発言力を認められたステークホルダー間の熟議により統御すべきとする立場である。被影響利害原理に基づく場合にもデモスの境界をめぐる争いは避けられず、GSDが主権国家秩序に取って代わりうるわけでもないが、その制度化は従来の法的デモスに加えて、機能的・多元的なデモスを通じた集合的自己決定の回路を新たに整備するものであり、より適正な境界画定を導く構想として規範的に擁護しうる。
ステークホルダー・デモクラシーという立場についての原理的な議論で,以前の記事で触れたように,10月の日本政治学会で報告した内容と姉妹編のような関連性になっています(執筆時期はこちらの論文が先です).あわせてお読み頂けると嬉しいです.
思えば卒論の時から同様の研究テーマに取り組んでいるわけで,そのことを話したある先生に「ずいぶん一貫しているね(珍しい)」といった反応を頂いたことがありますが,一貫している割にこの程度の水準かと思われるかもしれません.ご批判を乞う次第です.
*なお論文の内容とは関係ありませんが,このブログや他に私が運営するサイトについて,更新が滞っていることを心苦しく思っております.来年度中を目途にウェブ上の活動体制を再構築したいと考えておりますので,引き続きよろしくお願いいたします.
Monday, October 3, 2016
日本政治学会2016年度研究大会
10月2日(日)に,日本政治学会2016年度研究大会(於:立命館大学大阪いばらきキャンパス)の分科会C-1「民主主義の衝突?――危機から競合へ」にて,研究報告をさせて頂きました.
論題は,「分割して統治させよ――ステークホルダー・デモクラシーの複数性」というもので,ステークホルダー・デモクラシーという立場について,熟議モデルに引きつける解釈と集計モデルに引きつける解釈,それらの複合可能性などを検討した内容でした.
拙い報告となり,また頂いた質問等にも十分に答えることができませんでしたが,分科会をご一緒させて頂いた各先生方と,ご質問頂いた先生方,ご清聴頂きましたフロアの方々,開催校スタッフの方々に,心より御礼申し上げます.
報告原稿はこちらに公開しておりますので,ご関心の向きはご笑覧頂ければ幸いです.後日改めて告知いたしますが,註に挙げている近刊論文と姉妹編のような格好になりますので,あわせて今後ご意見など頂くことができれば嬉しく思います.
Tuesday, May 31, 2016
政治思想学会2016年度研究大会
去る5月29日(日)に,政治思想学会2016年度研究大会(於:名古屋大学東山キャンパス)の自由論題分科会Cにて,研究報告をさせて頂きました.
論題は,「企業経営における政治的なもの――経済権力の民主化へ向けた予備的考察」というもので,19世紀後半から20世紀前半までの主要な経営学説・経営思想を「小政治」の一形式にかかわる思想史として読み替えることで,企業経営を主題とする政治思想史・政治理論研究の可能性を探る試みでした.
報告の際に一部お聞き苦しいところがあり,また頂いたご質問に不十分なお答えしかできないところが多く申し訳ありませんでしたが,ご司会頂いた辻康夫先生,ご質問頂いた諸先生方,ご清聴頂きましたフロアの方々に改めて御礼申し上げます.
学会HPに事前にアップして頂いたものに修正を加えた最終的な報告原稿を,academia.eduに掲載しておきましたので,ご関心がおありの方には是非ご笑覧頂ければ幸いです.
Wednesday, May 25, 2016
御礼: 山本 [2016]
- 山本圭 [2016] 『不審者のデモクラシー――ラクラウの政治思想』岩波書店.
著者の山本さんよりご恵贈賜りました.ありがとうございます.
山本さんとは主に学会などでお会いすることが多いのですが,今秋の日本政治学会では分科会をご一緒させて頂くことになり,何かとお世話になっております.
博士論文の待望の書籍化ということで,個別には既発表の雑誌論文などで拝読している部分もあるかと思いますが,まとまったかたちで読めるようになったことで理解を深められそうです.勉強いたします.
タイトルの「不審者」については,帯に引かれている次の記述が印象的です.それは「私たちのすぐかたわらに佇む不気味な隣人」,「たとえば私たちがよく目にするような、デモを横目に立ち行く彼/彼女であり、リズムに合わせてつま先を揺らす警官であり、遠慮がちに端のほうでコールを口ずさむ私たちのことでもある」.
- 目次
- 序章 デモクラシー、われら同質なるもの [1]
- 1 「人民」の両義性とデモクラシー [1]
- 2 終わりなき同質化と異質なもの [5]
- 3 本書の主題と先行研究 [9]
- 4 本書の構成 [18]
- 第一部 エルネスト・ラクラウのポスト・マルクス主義
- 第一章 ポスト・マルクス主義の系譜学――ラディカル・デモクラシーの足音 [27]
- 1 ポスト・マルクス主義前夜 [27]
- 2 マルクス主義国家論との対話 [29]
- 3 ラクラウのイデオロギー論――階級還元主義批判と人民=民主主義的審問 [33]
- 4 ポピュリズム論への展開 [38]
- 5 ポスト・マルクス主義の系譜学 [42]
- 6 「釈明なきポスト・マルクス主義」のために [46]
- 第二章 ポスト・マルクス主義の方法論 [51]
- 1 マルクス主義における本質主義批判とヘゲモニー [52]
- 2 言説 [60]
- 3 ポスト・マルクス主義への不満と不安 [69]
- 4 ポスト基礎付け主義 [74]
- 5 ラディカルな唯物論 [79]
- 第三章 政治と普遍的なるものの行方 [85]
- 1 普遍主義の黄昏のなかで [85]
- 2 『ヘゲモニー』における普遍主義への懐疑 [89]
- 3 普遍性の構築 [93]
- 4 普遍化しきれないものの残余 [101]
- 5 普遍と個別のはざまで [106]
- 第四章 敵対性と異質なもの [111]
- 1 敵対性への問い [111]
- 2 危機の時代におけるヘゲモニーと敵対性 [114]
- 3 転位と構成的外部 [118]
- 4 敵対性の相対化 [126]
- 5 同質性と異質性の閾 [130]
- 補論 政治的オプティミストの弁明――ポスト・マルクス主義とプラグマティズム [141]
- 1 はじめに [141]
- 2 ポスト・マルクス主義とプラグマティズム [144]
- 3 基礎付けへの二つの態度 [149]
- 4 プラグマティズムを徹底化すること [154]
- 5 政治的作為へのオプティミズム [158]
- 第二部 不審者のデモクラシーに向けて
- 第五章 アゴニズムの隘路――シャンタル・ムフの闘技的民主主義について [165]
- 1 ラディカル・デモクラシーとは何か [166]
- 2 シャンタル・ムフの闘技的民主主義 [171]
- 3 政治的なものの沈黙とアゴニズムの隘路 [180]
- 第六章 不審者のモンタージュ [187]
- 1 異質な不審者の出現 [187]
- 2 参加デモクラシー再訪 [190]
- 3 不審者の存在論 [194]
- 4 不審者のモンタージュ [204]
- 第七章 不審者のデモクラシー――ポピュリズム/同一化/象徴的代表/動員 [211]
- 1 同一性の政治学を牽制する――現代政治理論の二潮流 [212]
- 2 ポピュリズムとデモクラシーの二縒り理論 [220]
- 3 ラクラウのポピュリズム論――政治的なものの回帰 [230]
- 4 同一化と象徴的代表 [238]
- 5 参加モデルから動員モデルへ [246]
- 終章 政治的作為と偶発性――戦略と政治的なもの [261]
- 1 ラディカルなものの責務 [261]
- 2 政治的作為と偶発性のアポリア [265]
- 3 付帯と偶発 [270]
- 4 付帯の政治と偶発性の政治 [272]
- 5 民主主義理論から民主主義戦略へ [276]
- 6 戦略と政治的なもの [282]
Saturday, April 9, 2016
掲載・公開告知: 「辟易するエゴイスト――政治理論における利己主義の射程」
法政大学政治学専攻の院生が発行する学術誌『政治をめぐって』に掲載された拙稿がウェブで公開されました.刊行時期は2015年3月です.
断続的に取り組んでいるマックス・シュティルナーの再解釈ですが,今回は政治理論に引きつけてシュティルナーを読むための予備的考察といった内容になっています.その過程で色々な倫理学者を攻撃していますので,その辺りが読みどころでしょうか.
博士論文が終わったら,シュティルナーを対象とする思想史研究に本格的に取り組んでいきたいと考えています.いつになるか分かりませんが,思想史研究の成果を踏まえて,改めてエゴイズムの政治理論をまとめ直すことを長期的な目標としています.
- 松尾隆佑 [2015] 「辟易するエゴイスト――政治理論における利己主義の射程」『政治をめぐって』34: 1-35.
- はじめに
- 1. 輪郭――エゴイズムとは何か
- (1)エゴイズムの複数性
- (2)心理的利己主義の擁護
- (3)心理的快楽主義の擁護
- 2. 条件――エゴイズムは可能か
- (1)利己する主体の単位
- (2)利己の時間的制約
- (3)利己の身体的制約
- 3. 構想――エゴイズムは値するか
- (1)エゴイストによる正義構想
- (2)主体像の刷新――リベラリズムと規範的関係論のあいだ
- (3)エゴイズムの政治理論へ
- おわりに
Thursday, April 7, 2016
御礼: 源島 [2016]
著者の源島さんからご恵送頂きました.ありがとうございます.
前作に引き続きアイデアの政治によるブレア政権期の研究で,思惑の異なるアクター間での「協働」を可能にした条件を,言説分析を通じて明らかにするものになっています.
今回は特に「解釈主義」の立場が明確に打ち出されており,方法的意識がより鮮明になっているように(専門外ながら)感じました.ご研究の更なる展開が期待されます.
- 源島穣 [2016] 「イギリスの社会的包摂をめぐるアイディア――パートナーシップ制度参加に向けて」『国際公共政策論集』37: 67-84.
- はじめに
- 第1章 ガバナンスの展開とパートナーシップ制度
- 1、ガバナンスの展開―「効率性」から「協働」へ―
- 2、パートナーシップ制度とその問題点
- 第2章 分析枠組
- 1、どのようなアイディアを析出するか
- 2、アイディア析出の方法
- 第3章 協働に対する政府、地方政府、ボランタリー・セクターの認識
- 1、政府
- 2、地方政府、ボランタリー・セクター
- 第4章 アイディアの生成
- 1、「社会関係資本」の論理
- 2、「文化の変革」の論理
- 3、アイディアの確定
- 結論と今後の課題
Tuesday, December 22, 2015
御礼: 友澤 [2015]
著者の友澤さんから頂戴しました.ありがとうございます.
友澤さんにはサステイナビリティ研究所でお世話になっています.
最近あるところで話した際,「拒絶する主体」という言葉を否定的な響きをもって使った身としては,「拒絶することの創造性」という魅力的な捉え方に興味をそそられました.
- 友澤悠季 [2015] 「「公害反対運動」の再検討――拒絶することの創造性に着目して」『同時代史研究』8: 18-34.
- I 本稿の課題
- II 「公害」と「公害反対運動」をめぐる史的前提
- 1 高度成長は「公害」を前提とした
- 2 「公害反対運動」への社会的な期待
- 3 「公害反対運動」をめぐる資料状況と課題
- III 運動の動機とそのゆくえ――地域で生きること
- 1 「百年公害」を断ち切る挑戦――「渡良瀬川鉱毒根絶太田期成同盟会」の運動
- (1)初期の運動と世論の盛衰
- (2)毛利田での被害と運動の再燃
- (3)カドミウムの検出と調停申請
- (4)「鉱毒根絶はこれから始まる」
- (5)伝える相手の変化
- 2 不安と信頼をめぐる葛藤――原発立地町での原発反対運動
- (1)「公害対策」から外された放射性物質と原発反対運動
- (2)福島県沿岸での「公害」と「原子力」
- (3)「原子力の危険性」を理解してもらう困難
- (4)不安と信頼との葛藤
- 3 「美しい郷土」の原風景――広田湾埋め立て開発反対運動が守ろうとしたもの
- (1)岩手県陸前高田市に訪れた「地域開発」の契機と異議申し立て
- (2)市民の多様な反応
- (3)続けられた地域開発の議論
- (4)「何十年、何百年」という時間への出発
- IV 拒絶することの創造性――「される側」の論理から
- 1 「される側」からの出発
- 2 拒絶することが生み出す創造性
Monday, September 21, 2015
御礼: 山崎 (編) [2015]
- 山崎望 (編) [2015] 『奇妙なナショナリズムの時代――排外主義に抗して』岩波書店.
編者である山崎望先生より,ご恵送たまわりました.ありがとうございます.
本書は,ヘイトスピーチデモを前にした編者の「何か大きく異なるものが眼前に現れている、という衝撃」をもとに,「従来のナショナリズムにはない何かが「ある」、もしくは「欠けている」」,新たな形態としての「奇妙なナショナリズム」を,政治学者・社会学者が多角的に分析した論文集となっています(「おわりに」より).
山崎先生は序論,8章および「おわりに」を執筆されています.また,研究会などでたびたびお世話になっている清原悠さんが2章を執筆されています.
- 目次
- 序論 奇妙なナショナリズム?(山崎望) [1]
- 第1章 ネット右翼とは何か(伊藤昌亮) [29]
- 第2章 歴史修正主義の台頭と排外主義の連接――読売新聞における「歴史認識」言説の検討(清原悠) [69]
- 第3章 社会運動の変容と新たな「戦略」――カウンター運動の可能性(富永京子) [113]
- 第4章 欧州における右翼ポピュリスト政党の台頭(古賀光生) [139]
- 第5章 制度化されたナショナリズム――オーストリア多文化主義の新自由主義的転回(塩原良和) [165]
- 第6章 ナショナリズム批判と立場性――「マジョリティとして」と「日本人として」の狭間で(明戸隆浩) [197]
- 第7章 日本の保守主義――その思想と系譜(五野井郁夫) [233]
- 第8章 「奇妙なナショナリズム」と民主主義――「政治的なもの」の変容(山崎望) [277]
- おわりに(山崎望) [305]
序論では,既存のナショナリズムの類型が整理された上で,本書の分析対象となる現代ナショナリズムの「奇妙さ」が複数提示されています.とりわけ,「少数派ではなく、マジョリティこそがむしろ様々な層における「被害者」(もしくは潜在的な被害者)」としての自己定義をするようになっているという指摘(12頁)には,大変興味をそそられるところです.
また8章では,奇妙なナショナリズムへの対応にあたっての困難を乗り越える可能性が「民主主義の複線化」という視角から示されており,強く共感するとともに,同じくデモクラシー理論を研究する者として取り組むべき課題を再認識させて頂くことができました.
まだ全部を読めているわけではないのですが,理論と現実,思想と運動,過去と現在,日本と海外,さまざまな面からナショナリズムの変容が検証されているという意味で,繰り返し参照されるべき重要な一冊かと思います.じっくりと味読させて頂きます.
Friday, May 29, 2015
政治と理論研究会 第14回
どなたでも自由にご参加頂けます.事前申し込みは不要です.
- 日時:2015年6月20日(土)16:00~18:00
- 会場:法政大学市ヶ谷キャンパス ボアソナード・タワー 1102教室
- 報告者:宮川 裕二(法政大学 博士後期課程)
- 報告題名:「統治性研究」アプローチによる「新しい公共(空間)」政策言説の研究
- 報告概要:
「新しい公共(空間)」政策言説は、1990 年代後半以降、日本の新たな国家・社会の改革・形成指針として採用され、各分野・各レベルに大きな影響を及ぼしてきた。多様性を含み込みながら類同的な概念として語られてきたそれは、さまざまな立場・見地から、賛否あるいは両義的評価がなされてきたが、いずれにせよ国家・政府の限界や権能の縮退を示しているという認識においては、ほぼ一致をみせている。しかし報告者は、それを「国家の空洞化」の現れと捉えるのではなく、新たな統治のあり方へのシフトと関わるものとの仮説を立て、その研究方法として「統治性研究」アプローチをとることとした。
本論の「統治性研究」とは、ミシェル・フーコーの1977-78、78-79年度コレージュ・ド・フランス講義を嚆矢とし、その後アングロ-サクソン諸国の社会学や政治学を中心に展開されてきたものを指す。そこでは統治(government)することとは「他者の行動の可能な領野を構造化すること」(フーコー)であるとされ、そのアプローチは現在を、「間接的テクニックによって個人を指導し統制する新自由主義的な統治形態」を軸とした「国家の統治能力の喪失というよりは、統治のテクノロジーの再編成と再構築」(トーマス・レムケ)に向かっているものと診断するものである。イギリスの政治社会学者ニコラス・ローズは、そのアプローチに基づいて、ブレア政権の「第三の道」の統治性・統治テクノロジーを「アドヴァンスト・リベラル」と特徴づけている。
本論は、まず「統治性研究」の先行研究を渉猟し、そのアプローチの視座に基づいて、「新しい公共(空間)」政策言説をめぐるポジションについて、①ロールバック新自由主義、②ロールアウト新自由主義、③左派、④参加型市民主義の4つの理念型を提示し、それぞれの代表的な論者の文献を分析して、それらがどのような論点を基軸としてそれに向き合っているのかを整理した。さらに、「新しい公共(空間)」政策言説の推進側に立っていたのは主に①②であり、対立局面はあっても相互補完的な両者間で主調が入れ替わりながら推進されてきたことが、その言説に揺らぎをもたらした主因であるとみなし、1997年から現在に至る、すなわち行政改革会議「最終報告」の「公共性の空間」から、民主党政権下の「新しい公共」と第二次安倍政権の「共助社会づくり」までの政府関係文書の分析を行った。そしてそのような検討を通じて以下のような結論を得た。
すなわち、「新しい公共(空間)」とは、アドヴァンスト・リベラル段階の自由主義統治性のもと、従前のケインズ主義的統治性下の政府と諸アクターとの関係設定を再編し、統治者としての政府が、被治者である諸アクターにより展開される様々な活動及びその効果を管理しようと意欲する、統治実践の領域であるとする。多様なアクターが、多様な戦略や政策ツールを用いながら、それぞれの利害関心―それは利己的とされることも利他的とされることもありうるし、また制度構築あるいはキャンペーンにより働きかけられたものであることもありうる―の実現を図ろうと自律的に行為し合う空間である(政府もこのレベルでは一アクターとなることがある)とともに、その活動と効果が人口の全体・国家に危険を及ぼすことを避け、その維持・増強に資するものとなるよう、政府により、主には間接的介入によって舵取りされるガバナンス空間、ということである。そして、そのような領域を形成するために、諸アクターの自由を生産し消費するような仕組みを整えるよう促したり、諸アクターが各種領域で活動できるような制度改革に向けて方向づけを行なったり、さらにこれが新たな日本社会・国家全体の指針であると国民の意識を涵養し活動へと促す機能を果たしたりするものが、「新しい公共(空間)」政策言説である、と。
- 参加にあたっての参考文献(*読了は参加の要件ではありません):
- 1)宇野重規 [2012] 「なぜ「ガバナンス」が問題なのか? ――政治思想史の観点から」東京大学社会科学研究所全所的プロジェクト研究「ガバナンスを問い直す」ディスカッション・ペーパー・シリーズNo. 22.
- 2)仁平典宏 [2011] 「ボランティアと政治をつなぎ直すために――ネオリベラリズム以降の市民社会と敵対性の位置」『ボランタリズム研究』1: 13-24.
- 3)高島拓哉 [2013] 「新しい公共(空間)」で公共サービスを劣化させないために」『大分大学経済論集』65(2): 27-54.
- 文献の入手が困難な場合には,下記にお問い合わせ下さい.
- 問い合わせ先:松尾 隆佑 kihamu[at]gmail.com
Tuesday, May 12, 2015
掲載告知: 「ステークホールディング論の史的展開と批判的再構成」
学会誌投稿論文が刊行されました.下記に目次を掲載しますので,書店で見かけた際にはお手に取って見て頂ければ幸いです.
- 松尾隆佑 [2015] 「ステークホールディング論の史的展開と批判的再構成――普遍主義的な資産ベース福祉によるシティズンシップ保障の構想」『政治思想研究』15: 366-395.
- 一 はじめに――社会的包摂・シティズンシップ保障・普遍主義福祉
- 二 史的展開
- 1 ステークホルダー資本主義
- 2 ステークホルダー・グラント
- 3 財産所有デモクラシー
- 三 批判的再構成
- 1 ステークホールディング論の過去と未来
- 2 理念的側面――民主的連帯・集合的義務・自律保護
- (1)連帯の理由――互恵性から民主的連帯へ
- (2)果たされるべき義務――その集合的性質
- (3)自律の保護――多元的な政治社会におけるステークホルダーの地位
- 3 制度的側面――普遍主義的な資産ベース福祉を中心とする複合的保障
- 四 おわりに――再び、「居場所」と「出番」のある社会へ
収録号は学会HPで目次が確認できるほか,数年後には全体ファイルが公開されます.また,将来的にはJ-Stageで論文単位のファイルも公開されるものと思います.学会誌という性格もあり,抜き刷りは非会員でお世話になった方を中心にお配りする予定です.
論文の内容は,2013年8月に東京法哲学研究会で行った報告「ステークホールディングの理論的再構成――福祉ガバナンスの規律を中心に」を修正したものです.研究会にご出席頂いた方々には,この場を借りて深謝申し上げます.
さらに遡ると,元々は2008年に提出した修士論文でわずかに言及したステークホルダー資本主義やステークホルダー・グラントの議論を深掘りしつつ拡張したという成り立ちがあります.査読を通るまでに時間がかかったことも含め,現時点での情勢に照らしてどうかと考えるところがなくはありません.
また,限られた字数でさまざまな論点に触れており,われながら無茶な論文だなぁとも感じますが,ひとまず世に出すことができて良かったと今は思っています.
ご笑覧・ご批判を乞う次第です.
Wednesday, February 25, 2015
御礼: 源島 [2015]
著者の源島さんからご恵送頂きました.ありがとうございます.
ブレア政権下での社会的包摂の理念がなぜワークフェア政策へと帰結したのかを,戦後イギリスの「就労規範」に着目して解き明かそうとするもので,アイデアの政治のアプローチによる最新の研究成果かと思います.
源島さんとは同時期に法政へ入学した間柄ですので(修士課程か博士課程かの違いはありましたが),筑波に進学されてからも着実に研究を進められていることに感慨深く拝読しました.
- 源島穣 [2015] 「イギリス福祉国家改革における社会的包摂の論理」『国際公共政策論集』35: 51-67.
- はじめに
- 第一章 社会的排除/包摂に関する議論
- 第二章 労働党の社会的包摂政策
- 第三章 ベヴァリッジ報告が提出した就労規範
- (1)ベヴァリッジによる福祉国家――福祉「国家」と「個人」
- (2)福祉国家の危機の時期――福祉「国家」と「個人」の関係の継続
- 第四章 イギリスにおける社会的排除の言説状況
- (1)排除に対する「当事者」の視点
- (2)福祉「国家」から福祉「社会」へ
- 第五章 完全雇用を取り戻す――「福祉社会」と「個人」
- 結論と含意
Friday, January 30, 2015
御礼: 河合 [2014]
著者の河合さんからご恵送頂きました.ありがとうございます.
アーレントの「始まり」論(ないし「活動」論)のポテンシャルを丁寧に見定めるご論文で,立憲主義やラディカル・デモクラシーへの関心からも興味深く読むことができると思います.
- 河合恭平 [2014] 「H・アーレントのアメリカ革命論と黒人差別の認識――「始まり」の恣意性と暴力に関連させて」『社会思想史研究』38: 184-203.
- はじめに
- 一 アーレントの「始まり」論とその難問――主にアメリカ革命論との関係で
- 1 「始まり」およびその恣意性と暴力について
- 2 「始まり」の難問の解決策としてのアメリカ革命という「始まり」
- 二 『革命について』におけるアーレントの黒人差別の認識
- 三 「リトルロックに関する考察」におけるアーレントの黒人差別の認識
- 四 「市民的不服従」論文における「始まり」論の展開――黒人差別との関連で
- 結論
Monday, December 29, 2014
2014年の政治思想
年の瀬ですので,一昨年・昨年と同様,政治思想書の収穫を振り返ります.今年も内容に踏み込んだ紹介をする余裕がありませんので,備忘として研究の動向をメモしたものだとご了解ください.
なお偶然来訪された初学者の方などのために一言しますが,どういう研究が刊行されているかをきちんと知るには,学会誌の書評欄などにあたるのが確実です.刊行されてから学会誌に書評・紹介が載るまでにはタイムラグがあるものの,政治思想分野の主要な研究は,日本政治学会『年報政治学』(「学界展望」では論文も紹介),日本政治思想学会『政治思想研究』,社会思想史学会『社会思想史研究』の書評欄を眺めれば知ることができます.また,法学に関係する研究であれば『法律時報』毎年12月号の学界回顧で採り上げられることがありますし,人文・思想書は月曜社のブログで詳しく紹介されています.東京財団の政治外交検証プロジェクトは,政治外交史・国際関係を中心にしながらも,政治学・社会科学の幅広い新刊図書リストを作成・公開しています.
さて,以下便宜的に10点を挙げながら,関連する書籍に触れていきます.
- (1)小野紀明/川崎修 (編集代表) 『岩波講座 政治哲学』全6巻, 岩波書店.
今年最大のトピックは,この分野で初となる講座が発刊・完結したことでしょう(詳細目次はこちらから).昨年のこの企画記事で,テキスト類の充実化を指して「この分野の基礎がさらに厚みを増す」と書きましたが,本講座に凝縮されている研究蓄積を乗り越えていくのも大変そうです(完結記念シンポジウムでは,何年後かに同じ講座を新しく出すことへの希望も聞かれました).
基礎の厚みということで言えば,主だった思想家の概説+主著の抜粋から成る,杉田敦/川崎修 (編) 『西洋政治思想資料集』法政大学出版局が出版されたことも大きいでしょう.ほかに,上記講座とほぼ同じ時期を扱った単著通史として,坂本達哉『社会思想の歴史――マキアヴェリからロールズまで』名古屋大学出版会を見逃せません.古典の邦訳として,ホッブズ『ビヒモス』山田園子 (訳), 岩波書店(岩波文庫)が初めて出版されたこともニュースでした.レオ・シュトラウス『政治哲学とは何であるのか? とその他の諸研究』飯島昇蔵ほか (訳), 早稲田大学出版部もここで挙げておきます.
- (2)安藤裕介 『商業・専制・世論――フランス啓蒙の「政治経済学」と統治原理の転換』創文社.
上記講座にも寄稿している著者による博論の書籍化です.18世紀フランスを扱っていますが,統治が直面する諸問題という観点において,現代にひきつけて読むことができるかと思います.
啓蒙つながりで言えば田中秀夫先生が昨年に引き続きご活躍で,田中秀夫『スコットランド啓蒙とは何か――近代社会の原理』ミネルヴァ書房に加え,大部の編著,田中秀夫 (編) 『野蛮と啓蒙――経済思想史からの接近』京都大学学術出版会を出されています.
欧米思想史ではほかに,柴田平三郎『トマス・アクィナスの政治思想』岩波書店,宇羽野明子『政治的寛容』有斐閣,原田健二朗『ケンブリッジ・プラトン主義――神学と政治の連関』創文社,桑田学『経済的思考の転回――世紀転換期の科学と統治をめぐる知の系譜』以文社などが目立った研究書でしょうか.論文集では,行安茂 (編) 『イギリス理想主義の展開と河合栄治郎――日本イギリス理想主義学会設立10周年記念論集』世界思想社が目を引きます.
- (3)濱野靖一郎『頼山陽の思想――日本における政治学の誕生』東京大学出版会.
日本政治思想で一冊挙げるとすれば本書でしょう.やはり博論の書籍化ですが,著者は大学院の先輩でもあることから,合評会を開催させて頂きました.本書でもやはり統治が大きなテーマになっており,山陽の思想を通じて政治への反省を迫られるという意味で,現代との接続が可能です.
ほかに,論争の歴史に注目した河野有理 (編) 『近代日本政治思想史――荻生徂徠から網野善彦まで』ナカニシヤ出版が話題を集めました.矢内原事件が当事者にどう見えていたかを検証した将基面貴巳 『言論抑圧――矢内原事件の構図』中央公論新社(中公新書)は,読み物としても面白く,しかし独特の感慨を残します.他の研究書として(政治史と言うべきでしょうが),佐藤健太郎『「平等」理念と政治――大正・昭和戦前期の税制改正と地域主義』吉田書店があります.
- (4)井上彰/田村哲樹 (編) 『政治理論とは何か』風行社.
政治理論分野での最大のトピックは(上記講座を抜きにすれば)本書刊行でしょう.経済学や社会学,思想史,あるいは経験的な政治分析など,隣接分野からの多角的な視点によって政治理論のあり方について検討が加えられています.日本政治学会での関連セッションも盛況でした.私の専攻分野でもありますので,可能ならそのうち感想を書きたいと思います.
既発表の論文が中心ではありますが,森政稔『〈政治的なもの〉の遍歴と帰結――新自由主義以後の「政治理論」のために』青土社が出版されたのも大きなニュースでした(こちらも検討したいと思いつつ果たせずにいますので,そのうちに).趣の違うところでは,吉田徹『感情の政治学』講談社(講談社選書メチエ)を挙げられます.感情への注目は色々な分野で今まさに開拓されているさなかのテーマですので,今後の議論の先駆けになる一冊かなと思います.
ほかに,翻訳で著名なものが幾つか出ています.キャロル・ペイトマン『秩序を乱す女たち? ――政治理論とフェミニズム』山田竜作 (訳), 法政大学出版局,マイケル・ウォルツァー『解釈としての社会批判』大川正彦/川本隆史 (訳), 筑摩書房(ちくま学芸文庫),アイリス・マリオン・ヤング『正義への責任』岡野八代/池田直子 (訳), 岩波書店,スティーヴン・マシード『リベラルな徳――公共哲学としてのリベラリズムへ』小川仁志 (訳), 風行社,ロナルド・ドゥオーキン『神なき宗教――「自由」と「平等」をいかに守るか』森村進 (訳), 筑摩書房,ユルゲン・ハーバーマスほか『公共圏に挑戦する宗教――ポスト世俗時代における共棲のために』箱田徹/金城美幸 (訳), 岩波書店,エルネスト・ラクラウ 『現代革命の新たな考察』山本圭 (訳), 法政大学出版局など.
- (5)千葉眞『連邦主義とコスモポリタニズム──思想・運動・制度構想』風行社.
国際政治思想の著作では,まず本書と古賀敬太『コスモポリタニズムの挑戦――その思想史的考察』風行社を挙げておきます.いずれも,久々に登場した「政治理論のパラダイム転換」シリーズの新刊です.ほかには論文集として,高橋良輔/大庭弘継 (編) 『国際政治のモラル・アポリア――戦争/平和と揺らぐ倫理』ナカニシヤ出版と宇佐美誠 (編) 『グローバルな正義』勁草書房が出ています.
- (6)田中拓道『よい社会の探求――労働・自己・相互性』風行社.
ここからは個別分野からは離れて.本書は,「政治理論のパラダイム転換」と同じく風行社が立ち上げた新シリーズ,「選書〈風のビブリオ〉」の一冊として刊行されています.同シリーズでは,早川誠『代表制という思想』風行社が先に出ていますが,いずれも劣らず良書です.特に本書は,アリストテレスやアクィナスからスミス,ヘーゲル,マルクス,ひいてはロールズやハーバーマスまで,労働と福祉を軸にした思想史をコンパクトに辿ることができるという意味で,類書を見出しにくいかと思います.
- (7)植木豊 (編訳) 『プラグマティズム古典集成 パース、ジェイムズ、デューイ』作品社.
昨年触れた宇野重規『民主主義のつくり方』はプラグマティズムを重視した点に特色がありましたが(宇野先生は上記講座にもプラグマティズムの章を執筆しています),その影響もあってか,プラグマティズム関連本の出版ラッシュが続いています.原典では上記古典集成のほかに,ジョン・デューイ 『公衆とその諸問題――現代政治の基礎』阿部齊 (訳), 筑摩書房(ちくま学芸文庫).その他,コーネル・ウェスト『哲学を回避するアメリカ知識人――プラグマティズムの系譜』未来社,ジョン・P. マーフィ/リチャード・ローティ『プラグマティズム入門――パースからデイヴィドソンまで』高頭直樹 (訳), 勁草書房など.
- (8)矢野久美子『ハンナ・アーレント――「戦争の世紀」を生きた政治哲学者』中央公論新社(中公新書).
今年を振り返る上で,映画『ハンナ・アーレント』公開に伴って継続していたアレントブームを外すことはできないでしょう.本書のほかにも,入門書として仲正昌樹『ハンナ・アーレント「人間の条件」入門講義』作品社,川崎修『ハンナ・アレント』講談社(講談社学術文庫)が,研究書としてパトリシア・オーウェンズ『戦争と政治の間――ハンナ・アーレントの国際関係思想』中本義彦/矢野久美子 (訳), 岩波書店が出ています.
アレントとは違いますが,フランクフルト学派とハーバーマスをここに挙げておきましょう.細見和之『フランクフルト学派――ホルクハイマー、アドルノから21世紀の「批判理論」へ』中央公論新社(中公新書),木前利秋『理性の行方 ハーバーマスと批判理論』未來社,ユルゲン・ハーバーマス 『自然主義と宗教の間――哲学論集』庄司信/日暮雅夫/池田成一/福山隆夫 (訳), 法政大学出版局.
- (9)ブリュノ・ベルナルディ『ジャン=ジャック・ルソーの政治哲学――一般意志・人民主権・共和国』三浦信孝 (編), 永見文雄ほか (訳), 勁草書房.
「一般意志2.0」との関係を云々しなくても近年ルソーへの注目は高くあり続けていると思いますが,本書はルソー研究の最前線をうかがうために必読でしょう.永見文雄/三浦信孝/川出良枝 (編) 『ルソーと近代――ルソーの回帰・ルソーへの回帰』風行社は,ルソー生誕300周年記念シンポに基づく論文集.
- (10)吉野裕介『ハイエクの経済思想――自由な社会の未来像』勁草書房.
最後に,今年に始まった話ではありませんが「保守」ということが関心を集めていますので,ハイエクの研究書を挙げておきます.ハイエクについては上記講座にも山中優先生が寄稿しており,さらに本書著者と山中先生がどちらも執筆している,桂木隆夫 (編) 『ハイエクを読む』ナカニシヤ出版も出版されています.関連で,ジェレミー・シアマー/ピアズ・ノーリス・ターナー (編) 『カール・ポパー 社会と政治――「開かれた社会」以後』神野慧一郎/中才敏郎/戸田剛文 (監訳), ミネルヴァ書房を挙げておきます.
保守主義については,佐藤一進『保守のアポリアを超えて――共和主義の精神とその変奏』NTT出版が出ています.入門書として,仲正昌樹『精神論ぬきの保守主義』新潮社.
それでは,よいお年を.
Sunday, October 12, 2014
御礼: 大井 [2014]
日本政治学会(於:早稲田大学)にて,著者の大井さんから頂戴しました.ありがとうございます.
特集「リベラルの言説――批判的検証」の一部ということで,國分功一郎『来るべき民主主義』の評を通じて,「玉石混交の「リベラル」言説に対する審美眼の構築を目指す」ご論考となっています.
- 大井赤亥 [2014. 7] 「「リベラル」を見極める審美眼のために」『季刊ピープルズ・プラン』65: 42-49.
- 1 はじめに――「リベラル」の定義について
- 2 「リベラルの言説」と民主主義論
- 3 小平市での都道建設問題と住民投票
- 4 主権と立法権をめぐる政治哲学の「欠陥」
- 5 制度の多元性と住民投票
- 6 結論――「リベラル」を見極める審美眼を
Tuesday, September 30, 2014
福島原発事故に伴う指定廃棄物の最終処分地選定をめぐる政策過程
本日(2014年9月29日),法政大学政治学専攻月例研究会にて標記の報告を行いました.目下係争中の政策課題でありますので,一般の便宜に供するため,報告に用いたレジュメを公開するとともに,註等を省略した内容を以下に掲載します.
指定廃棄物についての公式情報は,環境省の「放射性物質汚染廃棄物処理情報サイト」にて発信されています.現状とこれまでの経緯については,同省「放射性物質汚染廃棄物に関する安全対策検討会」第1回(2014年4月28日)の資料4「放射性物質汚染廃棄物の発生経緯と現状について」が比較的まとまっているかと思います.
私がこの問題に関心を持ち始めたのは本年5月からと遅く,また急ごしらえのレジュメでもあることから,誤りを多々含んでいるものと危惧します(主としてインターネット上にて入手可能な情報源に依拠し,聞き取り調査などは行っておりませんし,新聞報道も網羅的には参照しておりません).ご叱正・ご批判を歓迎いたします.
1. 指定廃棄物とは何か
- 2011年3月の福島第一原子力発電所事故に伴い発生した、一定量の放射性物質(1kg当たりの放射性セシウムの濃度が8000ベクレル超)を含む汚泥、汚染稲わら、浄水発生土、焼却灰など。1都11県に、合計14万トン以上が一時保管されている。
- 福島県を除き、相対的に量の多い宮城・茨城・栃木・群馬・千葉の5県については、11年8月公布の「放射性物質汚染対処特措法」と、同年11月11日に閣議決定された国の「基本方針」に基づき、県内処理のための最終処分場を建設することが予定されている。残りの7都県については処分方針が決まっていない。
- 処分にあたっては、稲わらなど可燃性廃棄物は仮設焼却炉で焼いて、容量を削減する。焼却灰や不燃性廃棄物を地下に埋め立て、コンクリートで蓋をする。数十年後に放射性濃度が一定程度減衰した段階で、作業用空間も埋設。
- 現状は、ごみ焼却施設や浄水施設、下水処理施設、農家の土地などに仮置きされており、保管の長期化と分散管理を問題視する環境省は、各県内の最終処分場建設を急ぎたい考え。福島県内への集約は「福島県にこれ以上の負担をさらに強いることは到底理解が得られない」として、これを否定。
- 環境省は最終処分場立地を円滑に進めるため、1県当たり10億円、5県に合計で50億円の「地域振興費」を交付する方針。
2. 各県の状況
2. 1. 宮城県
- 一時保管されている指定廃棄物は約3,300トン(稲わらなど農林業系副産物が約2,240トン、浄水発生土が約1,010トン)。稲わらが多く、全体の3分の2が登米市にある。個人の農地を借り、ビニールハウスに遮光性のカーテンをかぶせた状態で保管。14年3月で当初約束した保管期限は切れたが、最終処分場は決まらず。ほかに、白石市の浄水場では550トンの汚泥を保管。
- 環境省と県、市町村長による「市町村長会議」を12年10月から開催し、13年11月の第4回までに、処分場を県内に1箇所つくる方針と、候補地の選定手法について合意。
- 処分場立地のために必要な土地の広さ(2.5ha)のほか、次の3つの観点から国有地・県有地の適正評価を行い、候補地が絞り込まれた。
- ①自然災害の恐れのある地域、自然環境を保全すべき地域、史跡・名勝・天然記念物等の保護地域を避ける。
- ②年間50万人以上が訪れる観光地の周辺は避ける。
- ③生活空間との距離、水源からの距離、自然植生の少なさを考慮。
- 第5回の市町村長会議(14年1月20日)で、最も適性が高いとして、栗原市の深山嶽、加美町の田代岳、大和町の下原の3つの国有林を候補地に選定。
- 環境省は詳細調査を経て15年3月までには決定し、搬入もしたいとしているが、3首長および住民は反対を表明し、環境省の選定基準に則り、不適地であると主張。
- 栗原市:選定に使用されたデータは古い。08年の岩手・宮城内陸地震の際、周囲で国内最大級の地滑りが起きた。近くにある栗駒山は火山。周辺には鬼首、鳴子温泉など観光地もある。
- 加美町:町による現地調査の結果、地質、面積や斜度などが条件を満たしていない。周辺に砂防施設がある。リゾート施設に近接している。原発事故以来、地元米が風評被害を被ってきた。
- 大和町:自衛隊の王城寺原演習場が近く、誤射の危険性がある。候補地周辺の川が隣の色麻町の水源となっている。周辺には県のレッドリストに載っているオオバヤナギが群生。演習場や産廃最終処分場など、これまで様々な迷惑施設を引き受けてきた。
- 県は、14年5月から7月にかけ、国と3市町を交えた5者協議を4回開催し、詳細調査の受け入れを促したが、合意には至らず。石原環境大臣(当時)が出席した7月25日の第6回市町村長会議を経て、8月4日の第7回市町村長会議で調査受け入れを決定。
- 村井知事の受け入れ表明を受けて、環境省は調査着手を各市町に申し入れ。降雪のある11月半ばまでに調査を終えたいとする。栗原市長と大和町長は3市町の足並みが揃うことを条件に調査を容認も、加美町長は受け入れを拒否。同町議会は9月19日、処分場建設阻止を目指して「自然環境を放射能による汚染から守る条例」を全会一致で可決した。
- 反対住民には、「原因者負担」「発生者責任」の原則に基づき、指定廃棄物は福島原発に戻して、東京電力に責任を負わせるべきだとの主張が根強く、県内処理の妥当性を否定している 。背景には、福島県だけでなく自分たちも原発事故で迷惑を被った被害者であり、これ以上の負担は受け入れがたいとする住民感情がある。村井知事は、震災がれきの広域処理で他県にお世話になったのだから、指定廃棄物は自県内で処理すべきだという立場。
2. 2. 栃木県
- 県内の指定廃棄物の量は約1万500トンで、福島県に次いで多い。現在は、農家や事業所など県内約170ヶ所に分散して仮置きしている。
- 環境省は12年9月、福島県に近い矢板市塩田の国有林を候補地に選定したが、国の一方的な決定に対する地元の猛反発にあい、撤回を余儀なくされた。その後、宮城県と同様の方式による合意形成に方針を転換。13年4月から「県指定廃棄物処理促進市町村長会議」を開催し、12月までに県内1箇所の建設と候補地の選定方法が合意された。
- 14年7月、環境省は塩谷町上寺島(寺島入)の国有林を候補地に選定。候補地から直線距離4kmにある尚仁沢湧水は一帯の水源となっており、1985年に環境庁の「名水百選」に選ばれたこともあることから、住民は反発。
- 8月5日、塩谷町議会は候補地の白紙撤回を求める国への意見書を全会一致で可決。9月19日には同じく全会一致で「町高原山・尚仁沢湧水保全条例」を可決。同条例により、候補地を含む保全地域での事業には町の許可が必要とされた。
- 9月22日、「塩谷町民指定廃棄物処分場反対同盟会」は、県内処理を定めた「基本方針」の見直しを国に働きかけるよう求める要望書を、福田知事に提出。
- 福田知事は、処分場立地に伴う風評被害への対応を求め、尚仁沢湧水を核に同町を全国にPRする「名水プロジェクト」を例示。石原環境大臣(当時)は理解を示し、対策費50億円のほかにも、地域振興に協力する姿勢を示した。
- 県は14年8月から独自に設置した県指定廃棄物処分等有識者会議を開催。候補地での地下水に関する調査計画や、詳細調査の評価基準の項目などについて、環境省の選定を検証し、独自の意見を取りまとめる方針。
- 反対する主張や住民感情などは宮城と共通であり 、市町村長会議でも当初は福島第一原発への搬入を求める声が強かった。塩谷町長はインタビューで、「原発周辺に住民が帰れない土地が出てくるとしたら、そういう場所に集約して処理すること」を、「本気で考えてもいいのではないか」と述べている。矢板市長は仮置き場で保管を続ける案を主張したが、福田知事はこれを否定。
2. 3. 千葉県
- 約3,700トンが一時保管されており、特に指定廃棄物が多かった松戸市・柏市・流山市は、集約した保管場所への搬出を県に要望。県は14年度末を期限とする協定を結び、我孫子市・印西市の手賀沼下水処理場へ526トンを搬入し、12年末から保管している。
- 宮城、栃木と同様、13年4月から市町村長会議を開き、14年4月までに県内に最終処分場1箇所を建設することが了承され、初めて民有地も候補とすることになったが、未だに候補地は提示されていない。
- 保管期限が迫るなか、県は、14年度末までに最終処分場への搬出ができない場合、発生元の自治体が手賀沼から指定廃棄物を持ち帰り、新たな一時保管を行う準備を進めるように要請。手賀沼への搬入の際に反対運動が起こり、搬入が13年6月で停止した経緯もあるため、期限延長はしない方針。
- 手賀沼での反対運動にかかわった住民はその後、地元から指定廃棄物が撤去されればよいという問題ではないと語り、県民一般の当事者意識の欠如を指摘している。「私たちは当事者になったわけです。ここから20kmも離れていれば関心は全然湧かなかったと思う、我々も」。
2. 4. 茨城県
- 県内の指定廃棄物は約3,500トン。14市町内のごみ焼却場や下水処理施設など15カ所で、遮水シートで覆うなどして仮置き。放射性物質濃度が他4県に比べ低く、焼却灰や下水汚泥が9割を占め、農業系の指定廃棄物がないのが特徴。
- 12年9月に、最も福島県に近い県北の高萩市の国有地を、国が候補地として一方的に決定。地元の市長・住民らの反対にあって撤回を余儀なくされている。その後、13年4月から市町村長会議を3回開催してきたが、箇所数や選定方法に合意は得られていない。
- 大量の稲わらを敷地内で保管する農家から早急な対応を迫られている宮城、栃木両県とは事情が異なり、結論を急ぐ雰囲気が高まっていない。
2. 5. 群馬県
- 県内では、7市村で約1,190トンを保管。前橋水質浄化センターは市内の下水から出た汚泥の焼却灰など約340トン、高崎市では2つの浄水場で浄水時にたまった土と下水汚泥を計280トン、それぞれ保管している。
- 県は当初、県内に1箇所ではなく発生元の自治体ごとの最終処分を国に逆提案していたが、のちに国の方針に従うことを決めた。
- 他県同様、13年4月と7月に市町村長会議を開いたが、結論は出ず、3回目の会議は未定。市長会と町村会でも議論が行われ、市長会では意見が集約されなかったが、町村会は13年10月に、県内処理の方針を見直すよう環境省に求めた。
- 保管場所に民有地はなく、腐りやすい稲わらなどもない。費用もほとんどが環境省の委託費や東電への請求で賄われていることから、切迫感が生まれていない。
3. 問題の諸相
3. 1. 当事者意識の欠如――解決の主体は誰か
- 処理の必要性が明らかであるのに、誰も負担を引き受けようとしない、典型的なNIMBY(Not in my backyard)状況。
- 宮城県では、処理の必要性・緊急性が可視的だった震災がれきと比べ、一部農地などで保管されている指定廃棄物は、県民一般の目に触れにくい。他県でも浄水場などに保管されていることが多く、地元が保管地・候補地にならない限り、関心を呼びにくい。
- 多くの住民には、自分たちは(も)原発事故の被害地域であるとの意識が強く、処分場の建設は正当な理由のない過重な負担(受益なき受苦)と感じられている。
- 自ら解決すべき問題であるとの当事者意識を持つことは困難となり、国の責任や発生者責任が強調される。
- 他市町村の廃棄物を引き受けることにも抵抗がある。各県の市町村長会議では、県内1箇所という方針を問題視し、自治体ごとや数箇所での分散保管を主張する声が相当数あった。環境省は分散管理のリスクを強調するが、そもそも県単位での処分自体が行政区画以上の合理的理由を持たず、現に千葉県内では有望な候補地が見つからず苦慮している。地域間の公平と処分上の合理性、どちらの観点からしても、県内1箇所の方針には疑義が寄せられており、処分の妥当な単位には争いの余地がある。
- 震災がれきの広域処理をめぐっては、危険性が疑われる他県の廃棄物をなぜ受け入れなければならないのかが問題となった。指定廃棄物処分の場合、似た構造が同一県内で再現されているとも言える。ただしその際、他市町村の廃棄物の受け入れを求められる自治体も、既に一定の受苦を余儀なくされていることが多い。がれきの場合では、広域処理による負担の分配が(是非はあれど)地域間の公平(連帯)に適ったのに対し、指定廃棄物の県内1箇所への集約は累積的な受苦を生む可能性が高く、地域間公平の実現を困難にする。
- まして、福島への集約は累積的な受苦を極大化させるものであり、地域間公平を甚だしく損なう。それだけでなく、当事者意識を持たないままでいることを助長し、高レベル放射性廃棄物(HLW)処理をめぐっても同様の対処が繰り返される土壌を育みかねない。
3. 2. 不信の構造――合意を阻むもの
- 安全性や風評被害への危惧に加え、国への強い不信が、合意形成を困難にしている。
- 第一に、県内処理の方針が策定された手続きや、候補地選定過程の不明朗さ(後述)。
- 第二に、一旦候補地として詳細調査を受け入れると、不適地と判断されることは期待できず、引き返せなくなるのではないかという危惧。制度的には保障されている決定過程の可逆性を、住民が信頼できない状況。
- 第三に、各県で合意形成が難航するなかで、他地域に先がけて引き受けると、他都県分の廃棄物も搬入されてしまうのではないかという潜在的危惧。
- 第四に、一旦引き受けると、その周辺に別の危険施設・迷惑施設も次々と誘致されるのではないかという潜在的危惧。
3. 3. 政策枠組みの硬直性――不信を強化する意思決定手続き
- 県内処理の妥当性(福島県内への搬入の妥当性)をどう考えるかとは別に、政策決定手続きとしての妥当性が問題を含んでいる。
- 環境省は一方的な候補地指定の失敗を踏まえ、県ごとの市町村長会議で県内1箇所の処分場立地と候補地選定基準に合意を取り付ける方式に転換したが、県内処理の方針は堅持し、文献調査のプロセスは依然として不透明。
- 政策過程の「上流」で決定された県内処理という枠組み自体が「下流」の政策実施段階で摩擦を引き起こしているため、候補地選定や詳細調査などをいかに丁寧に進めても、反対側には形式的・表面的な対応にしか見えず、不信が強化されるばかりとなる。
- 指定廃棄物が地元にあること、来るかもしれないことで喚起される関心は、HLWを含む放射性廃棄物の処理問題を解決すべき主体としての当事者意識へと発展する可能性を持つものである。だが、現行の手続きでは、政策決定の時点で住民の意見反映の機会がなかったことを反対する根拠として与え、「福島に戻せばよい」という(合理的かもしれないが)安易な対処を主張して当事者意識を持たないままでいることを許している。
4. 解決の方向性
4. 1. 多段階の社会的合意形成――HLW処理に関する学術会議報告から
- 日本学術会議が14年9月に発表した報告「高レベル放射性廃棄物問題への社会的対処の前進のために」は、12年の報告で提唱した、HLWの「暫定保管」政策の具体化に向けた社会的合意形成を進めるための考え方を示したもの(日本学術会議 2014)。
- 政策案の選択の幅として、何を「変えられないもの」と考え、何を「変えてもよいもの」と考えるべきかについて、政策論議の参加者が判断を共有する必要がある。
- まず一般的・抽象的なレベルでの規範的原則(「変えられないもの」)に合意した上で、より個別的・具体的レベルでの判断(「変えてもよいもの」)についての合意を探っていくべき。以下の諸原則は広範な合意が可能。
- 安全性を最優先すべきこと(安全性最優先の原則)
- 国内のどこかに施設建設が必要なこと(自国内処理の原則)
- 多層的なレベルごとに、地域間における受益と負担が公平であるべきこと(多層的な地域間の公平の原則)
- 施設建設には、多層的なレベルごとの地域住民や自治体の同意が必要であること(社会的合意形成の原則)
- 最も一般的な原則について、全国知事会、全国市長会、全国町村長会などの多層的な地域代表団体の合意が得られたら、施設の具体的立地点を選定する段階に進める。
- 特定地域での立地点選定に先立っては、選定手続きや建設・管理に際する条件(建設の承認手続き、住民参加の方式、情報公開の仕組みなど)などの、より具体的な原則について、当該地域の自治体や市民団体代表などの合意が必要。
4. 2. 意思決定手続きの改善策
- 政策の実施過程ではなく、形成過程において複数の選択肢(集約処理、県内処理、分散処理など)と、その帰結(各選択肢における候補地での影響評価)を示す。
- 候補地選定や影響評価のプロセスは透明化し、市民参加型手法(討論型世論調査、パブリック・コメントなど)による議論喚起と意見反映を経て、選択肢の絞り込みを行う。
- どのような選択肢を選ぶにせよ、事後的に異なる地域や種類の廃棄物が搬入されたり、追加的に異なる種類の施設が立地されたりすることがないよう、予め政策内容を明確化・限定化し、各県知事や各地域代表団体との合意を形成する。
- 実際に候補地の調査や処分地の決定を行なうにあたっては、候補自治体および地域住民の広範な合意を条件とする。
- 合意が得られないのであれば、前の段階に手戻りすることを原則とし、意思決定過程の可逆性を保障する。
Tuesday, August 19, 2014
舩橋先生の急逝
社会学者で法政大学教授の舩橋晴俊先生が,8月15日の朝に逝去されました.
今年の4月から法政大学サステイナビリティ研究所のリサーチ・アシスタントをさせて頂いている関係で,同研究所を主導しておられた舩橋先生には,大変お世話になっていました.
わずか4ヶ月ほどの本当に短い間ではありましたが,頻繁にお会いする機会があっただけに,あまりにも突然の訃報には,今なお現実感が持てていません.
これまでの舩橋先生の業績については今更述べるまでもありませんが,2011年の震災以降には,以前にもまして精力的になられたようです.この間に私が知る限りでも,その仕事量は凄まじいものがありました.
たとえば,以下などです.
- 原子力市民委員会座長として,脱原子力政策大綱を取りまとめ(4月)
- 編者として,『原子力総合年表』を刊行(7月)
- 同じく編者として,『A General World Environmental Chronology』を刊行(7月)
- 世界社会学会議に合わせて,国際シンポジウム「サステイナビリティと環境社会学」を開催(7月)
- 日本学術会議「高レベル放射性廃棄物の処分に関するフォローアップ検討委員会」の「暫定保管と社会的合意形成に関する分科会」委員長として,分科会報告書案を取りまとめ(7月 → 「暫定保管に関する技術的検討分科会」の報告と併せて,年内にも委員会としての提言をまとめる方針とのこと)
これだけの仕事をなさる方というのは,全くもって代えがたく感じます.
年表のことや研究所のことなど,折に触れて今後の構想をうかがっていただけに,また個人的にもこれから更に色々と学ばせて頂くつもりでいたために,残念でなりません.
ご冥福をお祈りいたします.
Tuesday, July 22, 2014
御礼: 杉田 [2014]
こちらはもっと前になりますが,杉田敦先生から,ご編著の岩波講座4巻を頂戴しておりました.ありがとうございます.
ル・ボンについて書かれているということに多少の驚きがあったのですが,読んでみると非常に引き込まれ,得心するところがありました.
- 杉田敦 [2014] 「ル・ボン――群衆の登場」杉田 (編) [2014: 1章].
- 杉田敦 (編) [2014] 『国家と社会』岩波書店(岩波講座 政治哲学 4).
- 序論(杉田敦)
- I 大衆と組織
- 1 ル・ボン――群衆の登場(杉田敦)
- 2 ウェーバー――カリスマの来歴と変容(野口雅弘)
- 3 ソレル――主体の変容と想像力(金山準)
- II 自由主義と社会主義
- 4 多元的国家論――伝統と革新による自由の実現(早川誠)
- 5 ケインズの政治哲学――経済学における社会と国家(間宮陽介)
- 6 20世紀前半のマルクス主義――「等価性の世界」における形式と規律(西永亮)
- 7 ヘゲモニー論の系譜学――グラムシと現代政治思想(中村勝己)
- III 共同性と政治
- 8 シュミット――自由主義批判のジレンマ(大竹弘二)
- 9 ハイデガー――存在論的政治の可能性(小林正嗣)
- 10 シュトラウス――著者の責任と読者の責任と(飯島昇藏)
Subscribe to:
Posts (Atom)