Wednesday, May 8, 2013

政治と理論研究会 第9回



下記の要領で研究会を開催致します
※終了しました.

参加希望の方は,kihamu[at]gmail.com まで予めご連絡下さい.

なお,本研究会は法政大学大学院政治学専攻委員会と共催です.

  • 要領
    • 日時:5月8日(水)17時開始
    • 会場:法政大学 大学院棟 201教室
    • 報告者:松尾隆佑 (法政大学 博士後期課程)
    • 報告題名:「マルチレベル・ガバナンスの民主化と公私再定義――ステークホルダー対話を通じたデモクラシーの越境可能性」
    • 討論者:小林昭菜 (法政大学 博士後期課程)
    • 報告要旨:

      •  民主的正統性は常に不全である。第一に、政治的決定に正統性を与えるべき集団(デモス)の範囲自体は民主的に決められたものではありえないという原初的欠損が、第二に、決定が将来にわたって影響を及ぼしうる無際限な範囲(ステークホルダー)のすべてを決定過程に参与させることは望みようがないという遂行上の困難が、デモクラシーの可能性を本来的に枠付けている。そして、現代におけるグローバルな相互依存の深まりは、この可能性の幅をますます狭まつつあるように思える。
         核兵器の脅威や金融危機、原子力発電所事故、地球温暖化、感染症など、国境や世代を超越して広範な波及性を持つ多くの問題を、私たちは知っている。国民主権やシティズンシップといった概念に象徴されるように、民主的決定は必ず何らかの境界線を前提とするデモスに依拠して行われるが、このデモスの構成が当該決定のステークホルダーと乖離すればするほど、民主的正統性は欠損の度を増す。決定の影響が本来予定されている境界線を越えて波及する場合、その民主的正統性はどのように確保されうるか。こうした古典的問いの重要性は失われるどころか、加速度的に高まっている。
         とりわけ1990年代半ば以降のグローバル・ガバナンス論は、主権国家が単独では対処困難な地球的課題の解決のため、地域統合の促進や国際機構の発展に期待を寄せてきた(この点はデイヴィッド・ヘルドの「コスモポリタン・デモクラシー」論も例外ではない)。確かに地域機構・国際機構の成長はグローバルな公共的利益に少なくない貢献を為してきたが、近年のEU加盟諸国における反EU感情の発露に象徴されるように、トランスナショナルなガバナンスが実現すればするほど、民主的正統性の欠如が顕在化することになる(民主主義の赤字)。かつてロバート・ダールが指摘したように、越境的な問題への実効的・効率的な対処が可能な単位・主体と、その民主的正統性との間には、ジレンマが存在する。
         他方、多国籍企業や国際NGOなど、公式の政治過程における正統化手続きを経ずに事実上の権力を行使する非政府主体の民主的統制も、喫緊の課題となっている。このような非政府主体の台頭は、社会のガバナビリティ(統治可能性)を低下させるもの――主権への挑戦――であると同時に、政府と協働して公共的課題の解決を担いうる主体の登場という意味で、ガバナビリティ(統治能力)の補完可能性を拓くものでもある。もっとも官民協働によるガバナンスに対しては、公私の区分を失わせかねないとの批判も寄せられ、理論的回答が俟たれている。
         本報告では、ダールが提起したジレンマを解く手がかりを、「ステークホルダー共同体」に基づく多元主義たる「グローバル・ステークホルダー・デモクラシー」を提唱するテリー・ マクドナルドの議論に求め、批判的検討を施す。また、国連グローバル・コンパクト運動を例に、国家機能の拡大によらずにステークホルダー間の合意形成に基づこうとする討議的アプローチが、民間主体の事業過程そのものを政治化・民主化するとともに、公私の再定義をもたらす可能性を探究する。これらの作業により、デモクラシーを枠付けている境界線を――消し去るのではなく――越える方途を示すことが、本報告の目的である。
※追記(4/26):教室と報告要旨を記載しました.

※追記2(5/8):当日の報告スライドを掲載しました.

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